最近何かと話題のビットコインですが、その交換価値が暴落してバブルが弾けたようです。でも、ITバブルが弾けても、IT革命はその後にしっかりと起こったように、仮想通貨バブルが弾けても、仮想通貨はもしかすると、そう遠くないうちに高度資本主義経済・社会を創造的に破壊するかもしれないという予感がしています。その理由をご説明します。
ここでいう仮想通貨は、スイカやEdyなどの電子マネーや、マイレージ、Tポイント、ビットコインやさらには、私が出現を予想する地域&仮想通貨など、オンライン上の価値交換システムです。ひとつ断言できるのは、こうした細々としたものを几帳面に開発するのが世界中で最も得意なのは私たち日本人だということです。大学生の皆さん、今から研究すればきっとノーベル賞をとれますよ。
仮想通貨の利点その1。取引コストを劇的に低下させます。例えば、今アメリカから日本に1万円を送金しようとすると両国に銀行口座を持っていても、下手をすると手数料が3千円くらいかかります。日本からアメリカも同様です。これは、ぼったくりでしょう。海外から、あるいは海外への高い送金コストは一種の非関税障壁となって、国境を越えた自由なモノの取引を妨げています。しかし、仮想通貨があれば馬鹿みたいに安い値段で送金が可能になります。多分10円もしないのではないかな。
取引コストが低下すると、個人が商品やサービスを外国でも国内でも売ったり買ったりすることが簡単になります。例えば、個人ビジネスの代名詞ヤフーオークションで一番大変なのは代金の決済に手間とコストがかかることです。
現在我が国では、商店主などの自営業者の数の減少が問題になっていますが、その理由は店を構えたり、クレジットカードカード会社と契約したりするなどの初期費用や維持費用がかかるからです。でも、例えばヤフーショッピングなどの格安の仮想商店街で仮想通貨を使って商売ができるようになると、そのハードルが大幅に下がり、自営業を始める人が激増するでしょう。下手をすると、イオンショッピングモールよりも、便利で安い商売が可能になります。
個人がモノやサービスの販売に気軽に参入し始めると、今までの社会・経済システムやそのための各種の規制が陳腐化していきます。例えば、今アメリカではシェアリングといって、スマートフォンのアプリで気軽に車の同乗者を募る形態がはやっています。こうした、ものやサービスの「お裾分け」シェアを、仮想通貨で「心付け=御礼をちょっと払う」と組み合わせるとどうなるか?貨幣経済を中心とした社会の分業体制が崩れてくる。
例えば、タクシー会社。行政から許認可をとって、会社を立ち上げて、組合に加入して、地場の名士に挨拶して、多くの車を買って、運転手を雇って、無線システムを作って待機させる。だから、コストも高くなって、20kmを移動するのに1万円くらいかかるでしょうか?それを、個人は「今から家に一人で車運転して帰るんだけど、誰かのってかない?」とアプリで募集。「お礼はいくらでもいいよ」「どうせ、ついでだから、シェアライドは地球に優しいしね。」てなことが始まっています。
これでは、既存のモデルで「規制にあぐらをかいていた」タクシー業界はひとたまりもありません。個人タクシーも利権そのもの。こうしたシェアリングは白タクといって忌み嫌うでしょう。でも、何十年も勤め上げて個人タクシー営業権を手に入れたおじさんには気の毒ですが、あなたの利権につき合って、不便な暮らしをさせられるのはごめんです。便利な方がいいもの。ごめんなさいね。
タクシーだけでなく、あらゆる商品とサービスのシェアが個人ベースでスマートアプリを媒介に始まると、経済社会、特に規制でガチガチに守られていたシステムががらがらと崩れていきます。多分、薬剤師や電気・ガス・NHKの集金員というか、小売事業そのものなんかもITでいらなくなる。
「ちょっと料理してたら、味噌と醤油が足りなくなったから近所の人に借りよう、御礼は仮想通貨で」「そば打つのが趣味で、けっこう美味しいんだけど、開業するまでではないので、クックパッドで知り合った近所のお友達にお裾分け、御礼は仮想通貨で」「会社を定年退職して、あるいは、育児休暇中暇だから、2時間だけ近所の子供を預かるよ。御礼は仮想通貨で」「急病になったお隣さんに処方薬わけるよ」「勉強教えるよ」「DVD貸すよ」。
仮想通貨はそうした、「原始共産制社会」ともいえる新しいスマートコミュニテイの血流の役割を果たしていくでしょう。高度資本主義社会が拾えなかった、「できることだけ少しずつ」「無駄遣いをなくして分かち合う」という社会参加型のアプローチが可能になります。
ニート株式会社なんてできましたが、既存のシステムだと採算割れでも、取引コストが下がれば商売は成立するので結構いけるかもしれませんね。何せ元手はただですから。定年後の高齢者や専業主婦の労働力としての活用もできるかもしれませんね。でも、こんな話をすると、最低賃金どうするの?車や薬をシェアして、安全はどうするの?いろんな「規制守りたいよ派」からの逆襲が今から既に想像できて、実現までの道筋はそう簡単ではないでしょうけど。
一つ、仮想通貨には、具体的目に見える利点があります。「オレオレ詐欺」が撲滅できます。現金には色が付いていないので、銀行に架空口座を作られて、そこに振り込んでしまうともうお終りです。それ以上追えない。しかし、仮想通貨はこうしたマニュアルなシステムより、取引する双方の個人情報を補足しやすいため、架空口座を作ったり、ATMで引き出したりすることが難しくなります。お金に色がついているので、どうやって流れたかが追える。誘拐犯が盗難車両捕捉システムですぐに逮捕される、ああいったイメージです。そもそも実質匿名で銀行口座が開けるなんて、今の社会は、なんてローテク。スマート社会では高度なハッカー以外は無理になります。
もう一つ、わかりやすい利点。家庭で家計簿を作る必要がなくなります。スーパーの買い物、交通費、電気・ガス・水道などの公共料金をすべて共通プラットフォームの仮想通貨で決済すれば、いつ、どこで、誰が、何にいくら使ったかが詳細に記録されていきます。これをタブレットやスマホでみせる家計簿アプリを開発する業者がどうせ出てくるでしょうから、そうしたアプリを使えばすべて詳細に管理できるのです。すると、アプリがあなたのところはここが無駄遣いだよと教えてくれたり。子供が無駄遣いするのを防止したり。そこに、クーポンが送られてきて、今なら食品3割引でネット配送とか、そういったマーケテイング業者が出てきたり。そ の出入金記録が信用になるから、低利で借金ができたり。家計簿アプリのヘゲモニーを握るとビッグビジネスになりますね。ツイッターやフェースブックが悩んでいた、「どうやってSNSやウェブ2.0を収益・金を結びつけるか。広告だけじゃシャビーだし。」という悩みが一気に解決。
でも、家計簿アプリにはダークサイドも。へそくりや人に言いたくない支払いもあるでしょう。奥さんが旦那さんに「あんたキャバクラで2万円使ったでしょ」なんていう夫婦喧嘩の増加が懸念されます。まあ、給料袋から銀行振込になったことの延長です。一家の財務大臣にすべて握られてしまう。サラリーマン諸氏はある意味では生きづらくなる。御愁傷様です。
このように、仮想通貨は、無駄な消費(生産)を煽る高度資本主義社会の真逆を行くエコで無駄遣いのない便利で快適な生活、必要十分な生活の血液の役割を果たしてくれるのです。
敢えて申し上げておくと、私は、原理的な「反資本主義経済」とか「ユートピア思想」を主張しているのではありません。文明を捨てて自然に帰れなどということを申すつもりはありません。むしろ逆で、資本主義の発展段階を踏んでいくと、マルクスも真っ青のステージに図らずとも到達してしまうといっているのです。
さすがのマルクス先生もシェアリングやスマート社会の現出は予想できなかったでしょうね。あれだけ嫌っていた、貨幣やブルジョアジーがいなくなっちゃうのですから。敵がいなくなると、プロレタリアート独裁もできなくなって、困りもんですね。
冗談はともかく、課題も多くあります。プライバシーやセキュリテイ、サイバーテロ、高度ハッカーや公的サービスの関わり方など解決すべき課題も多いのですが、国民みんなで真剣に考えるときにきているでしょう。日本人は成熟しているので大丈夫。
このシステムは海外に売れます。そのパテントで食べていけます。モノ作りで輸出して儲けた時代から、システムで儲けて輸出する時代に移ってまいりましょう。皆で新たなステージに飛翔しましょう!
Nick Sakai
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NPO法人リージョナル・タスクフォース、代表理事
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