マンガはパッションだ! ~ 「海外マンガフェスタ2013」報告 --- 中村 伊知哉

アゴラ

今年で2回目となる海外マンガフェスタ。

 10月20日、東京ビッグサイトで開催しました。

 ぼくは実行委員会の顧問を務め、事務局をぼくが代表を務める融合研究所が引き受けています。

 http://kaigaimangafesta.com/


 今年は世界のマンガ教育についてパネルを開きました。

 当日、このパネルに先だって、「アニメ・マンガ人材養成産学官連携事業統括委員会」を開催していました。ぼくが委員長を務め、モンキーパンチ先生にも参加いただいています。アニメやマンガの人材を育成するため、モデルとなる教育カリキュラムを作成し、普及を図るのがテーマです。既にマンガのカリキュラム案を作成し、大学や専門学校など教育現場への普及に入ろうとしています。

 パネルは、その議論を受けて、国際的な人材育成をどうするか、ということを論じました。在日フランス大使館文化部参事官ベルトラン・フォールさん、トロント・コミック・アート・フェスティヴァル代表ペーター・バークモーさん、日本工学院専門学校 クリエイターズカレッジカレッジ長佐藤充さんにご登壇いただきました。フランスからは政府、カナダはフェス代表、日本は学校という、3カ国の違う立場のかたがた。

 冒頭、ぼくが話したことをメモしておきます。

日本はマンガ大国です。

 出版物の64%、売上高の20%がマンガ。ドイツは1.6%、フランスは0.4%というから、20%という日本は異常です。だからこそ海外から高い評価を得ているわけで。先行して海外で人気を得たアニメの多くはマンガがベースです。マンガは日本文化の中心であり、増殖炉でもあります。

 クールジャパンという言葉が生まれたのは10年前のこと。それは日本が言い出したことではなくて、海外からそう言われて気がついたものです。日本は自国のマンガをどう捉えるのかが改めて問われています。

 マンガは国内で大切にされていたわけではありません。教育に良くないといって長く社会問題になっていました。しかし10年ほど前から、海外の評価も受けて、とても大切な文化であるとの認識が広がり、政府もメディア芸術として後押しするようになりました。

 10年前に政府は内閣官房に知財本部を置き、私はそのコンテンツ調査会長を務めています。そこでもマンガは中心的な位置づけとなっています。また、今年は政府にポップカルチャー分科会が設けられ、その議長も務めたんですが、そこでもマンガ原作者が委員となって、振興策を議論しました。いずれも、人材をどう育成するのかが中心的なテーマとされています。

 そして、文科省は人材養成の事業を実施しており、今日こうしてシンポジウムの開催に至っています。とはいえ文科省はじめ日本政府は、こうしたポップカルチャーの分野は政府主導ではなく民間主導で進めるべきという姿勢も明確にしています。われわれが自ら考えなければ。

 一方、アメリカのコミックスやカナダのマンガはもちろん、仏のバンドデシネや、アジアでも自国のマンガは大切な文化として認知されています。マンガという表現様式が、各国の文化に立脚して、多様で、深みのあるものに進化しているのは素晴らしいこと。各国のマンガ関係者が連携して、地球のマンガ文化を発展させたいところです。

 パネラーへ質問。

 こういう海外マンガフェスタのような場は意味があるでしょうか。

 仏:フォールさん「マンガのグローバル化は著しい。交流も盛んになってきて、互いに影響し合う面が増えています。さらに分野を広げ、フィギュアや映画など、他分野との交流も重要になります。作家同士が世界観をたたかわせる場も大切です。」

 加:バークモーさん「カナダのマンガ産業は日本ほどの規模はありませんが、フェスの雰囲気は似ています。作家や読者が参加して、互いに発見を重ねていくことが大切。しかし、こういう取組に日本もフランスも政府が支援しようとしているのはうらやましい。」

 日:佐藤さん「ファンが集まるという点が重要。クリエイターが刺激を受ける場を大切にしたいです。」

 もう一問。ぼくはマンガ家になりたかったけど、なれませんでした。どうしたらいいかさえわからなかった。マンガ家を育てるには、あるいは、マンガ家が育つには、何がポイントでしょうか。

 仏:フォールさん「パッション! 情熱です。」

 加:バークモーさん「ノートを常に持ち、描け、ということでしょう。」

 日:佐藤さん「小さいころから絵を描かせることが大事です。ただ、それだけではダメ。マンガ産業を拡大させ、メシが食えるにならなければいけません。その両方が重要です。」

ですね。以前、マンガ人材育成に関して「先生はパラパラマンガをほめろ」と書いたことがありますが(http://p.tl/XlZW)、描かせて、ホメて、パッション!を維持すること。そして、産業基盤を形成し、才能ある若い人たちがこの分野に身を投じようとすること。この両輪ですね。

シンポ後、ちばてつや先生や松本大洋先生らもご一緒に記念撮影。関係者の努力は続きます。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年12月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。