不動産は長く使えるようメンテすることの大きな意味 --- 岡本 裕明

アゴラ

国土交通省が建物の耐用年数の見直しを行っているようです。仮にこれが大きく見直されるようになれば日本の不動産市場は変貌することになります。そして、20年以上にわたって滑り落ちるような不動産市場は明らかに逆回転を始めることになるかもしれません。今日はこのシナリオについて考えてみます。

日本の不動産がバブルを境に凋落傾向が止まらない理由はぱっと思いつくだけでも片手以上挙げられます。特にその理由をセグメントに分けて考えると景気後退(デフレ含む)による価格下落、土地神話の崩壊というマインドの植え付け、少子化を含む不動産の需給バランス、高層マンションというライフスタイルの変化等だと思いますが、もう一つ重要なことは中古住宅の買い難さが市場流通性の点から懸念されていました。


財務省が定める木造住宅の法定耐用年数は22年、RC造のマンションなら47年です。これが何を意味するかといえば、あなたの夢の新築の木造二階建ての家は22年後には価値が基本的にない、ということです。つまり、あなたが40歳でようやく郊外に家を買えたとしても定年も近い62歳には家の価値が無くなることになります。ならば、二世帯住宅に住む息子夫婦にとっては売っても土地の価値しかないのだからそこに住むしかないともいえるのです。つまり、逆説的ですが、選択肢をわざわざ狭めていることになるのです。

では新築10年後に売却すればどうなるか、といえば今度は買い手のローンが問題になります。新たに購入希望する人のセグメントは若い人、世帯所得がやや低い人を大きく取り込みますが、その際、長いローンが組みにくいという弊害が出てきます。銀行は土地については一定の掛け目で融資できますが、建物についてローン期間が長いと法定耐用年数に引っかかることになり、ローンが付きにくいという結果を生むかもしれません。となれば、せっかく欲しいという人がいてもローンが組めないのなら…ということになりかねないのです。

私はこの法定耐用年数が長く見直されていなかったことに疑問を持っています。

財務省でプレゼンされたある資料を見る限り、木造の平均寿命は1997年時点の43年から2005年の54年に11年も延びています。ちなみに1982年時点なら38年程度の寿命だったようです。つまり、建物の品質の向上などにより寿命は82年からは42%以上(多分今なら60%ぐらいあってもおかしくないでしょう)も延びているのです。しかも22年というのは「法定耐用年数」であっていわゆる減価償却上の話であります。つまり、実際の建物の寿命とリンクしていないのにそれがあたかも建物の価値にリンクするような仕組みそのものが日本の不動産事情を複雑にしてしまっているのです。

仮に国土交通省で耐用年数が大幅に見直され、財務省がそれに呼応して法定耐用年数を長くすれば、日本の中古住宅市場が大きく復活する土壌ができます。なぜならローンがより付きやすいですから買い手も増えやすく、市場の活性化につながります。また、今、タワーマンション一辺倒の日本の若者の不動産嗜好が戸建という選択肢により変わってくる可能性があります。

それでも日本の建物の寿命は欧米のそれに比べ半分以下のようですが、もう一つの理由としては日本人は戸建にしろ、マンションにしろ不動産の管理、リノベーション、アップグレードという感性が非常に鈍いと思います。「古くなれば建て替える」という発想が強く、常に新しいものを求める傾向が圧倒的に強いのです。それなりに理由はあるでしょう。例えば多雨多湿故に建物が傷みやすいと。しかし、ここバンクーバーも年の半分雨季でも住宅は長くきれいに使っています。

戸建の良さはマンションのように管理費がかからないというコメントをよく耳にします。そんなことがあるわけなく、本来ならやらなくてはならないメンテをすっ飛ばしているだけの話です。

不動産価値を高めるには品質向上による耐用年数の見直しも重要ですが、最後は住む人ひとり一人の管理が建物をどれだけ大事に持たせようとするか、ということにつながっていくかと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年2月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。