少子化問題を考える②:出生率上昇の鍵は「ポストモダン」家族の受容

衛藤 幹子

AleksandarNakic/iStock

先進国の中で(合計特殊)出生率の改善に最も成功した国と言われるフランス、どのような要因が働いているのか。日本でも良く知られているのが手厚い家族政策だ。家族給付(主に子ども手当)及び家庭と仕事の両立支援を2本柱に、個別のニーズに沿った木目細かなサービスが展開されている。フランスの家族政策については官民挙げて研究が進み、ネットでもその概要を知ることができるので、ここでは移民と結婚や家族をめぐる考え方の変化に注目したい。

(前回:少子化問題を考える①

移民は一般的に若く、壮年期の人の場合は定住後に若年の家族を呼び寄せる。また、彼らの多くは発展途上国から来るため、より多くの子どもを持つ傾向があり、移民の受け入れは出生率上昇に貢献すると考えられる。

フランスの移民政策は、人口急減に直面した第一次世界大戦後に始まり、1945年から60年代の高度成長期には多くの移民労働者を受け入れた(平出重保氏「フランス移民政策の現状と課題」『立法と調査』2009.6)。その後、受け入れ人数は低下したが、1997年から上昇に転じ、2002年にピークを迎えて以降は再び減少傾向にある(World Bank Data)。

2019年の実績では、ドイツ、スペイン、イギリスの半数以下であった(Eurostat)。とはいえ、長期にわたる移民受け入れによりその累計数は増えていて、2018年の統計によると、移民がフランスの総人口(67,000,000人)に占める割合は9.7%(6,500,000人)、うち52%が女性で、さらにフランス国籍取得者は2,400,000人(3.6%)である(ined)。

移民はどの程度フランスの出生率に貢献しているのか。この疑問に答える論文が2019年の「Population & Science」という学術誌に掲載された(Sabrina Volant, Gilles Pison, and François Héran, “French Fertility is the highest in Europe. Because of its Immigrants?”)。

論文によると、移民女性の出生率は非移民女性に比べて確かに高い(表1)。2017年をみると、非移民女性の出生率1.88に対し、移民女性は2.6で、移民女性から生まれた新生児は全体の19%を占めた。

だが、論文は、移民女性が引き上げた出生率は0.1余りに過ぎず、その貢献は限定的だと指摘する。理由は、出産年齢期のフランス女性全体の中に占める移民女性の割合が12%に止まっているからだ。大人数の移民受け入れに伴うコストを勘案すると、移民頼みの少子化対策は非現実的である。

フランスの出生率への移民の影響はさほど大きいものではないことがわかった。実際、表1をみると、非移民女性の出生率も低下するのが当然の先進国の女性としてかなり高い。

つまり、フランスは、放置しておけば子どもを産まなくなる女性たちが子どもを持ちたくなるような政策を極めて効果的に行なってきたのである。その一つが、すでに述べた家族政策であるが、それ以上に私が注目するのは、結婚や家族をめぐる自由かつ柔軟な考え方が社会に受容され、女性たちが結婚や出産、育児にまつわる社会的束縛から解放されている点だ。

フランスのカップルが生活を共にする場合、法律婚、事実婚、同棲のいずれかを選択できる。日本でも事実婚は存在するが、フランスの事実婚は1999年に登録制度になり、市町村役場に届け出れば、婚姻に近い義務と権利が法的に発生する(Notaires.fr)。同棲は何の縛りもない自由な関係ではあるが、法的保障もない。しかし、3つのいずれの結びつきであれ、また一人親家庭であれ、その子どもの法的地位に何ら区別はなく、家族給付、両立支援など全ての家族サービスを等しく受けることができる。また、法律婚以外のカップルや彼らの子どもが偏見に苦しむこともない。

こうした社会では、おそらく産まれてくる子どもの不利益や社会的制裁を考慮して、あえて入籍したり、役所に届け出たりなどする必要はないだろう。事実、同棲を選ぶカップルは年々増加傾向にあり、2011年から2014年の平均では、法律婚240,000組、事実婚164,000組に対し、同棲は両方を合わせたよりも多い550,000組であった(Le Monde, 21 novembre 2017)。

フランスは、子どもを産みたい、育ててみたいという女性があまり躊躇せず、その率直な思いが実現されやすい社会のようにみえる。

少子化は高度成長社会の副産物であり、その成長を支えたのが法的な婚姻関係で結ばれた夫婦と子供からなる「近代家族」である。少子化という成熟社会の言わば必然的な流れを堰き止めるためには、結婚や家族をめぐる考え方の思い切ったアップデートが必要だ。いかに家族政策を手厚くしても、それが婚姻カップルだけを前提にしたものだと、高い効果は期待できない。

少子化対策の鍵は、近代家族を超越する「ポストモダン家族」を受け入れることである。