電子書籍はなぜ普及すると断言できるか -大西宏

2010年07月19日 13:23

電子書籍はかならず普及します。紙と印刷による書籍に馴染んだ人のなかには、抵抗感があることも事実であり、アナログにも良さがあることは否定できません。馴染んだアナログ文化に愛着を持つという気持ちも自然です。
思わぬ人の中にも、電子書籍に抵抗感を感じるという人はいらっしゃいます。日本で最初にインターネット接続の商用サービスを開始したインターネットサービスプロバイダであるIIJの鈴木社長もそんなお一人です。デジタルの世界で活躍されているトップが、日経の経営者ブログで書かれている、電子書籍は馴染めないという記事を面白く読ませていただました。
「あんちiPad爺さん」(日経電子版)


その感覚はよくわかります。デジタルの衝撃で産業の姿が大きく変わってしまった写真の世界にもそれに近いアナログ派の方はいまでも根強くいらっしゃって、デジタルカメラは凄まじい勢いで普及したにもかかわらず、今でも、銀塩写真のファンは残っています。銀塩で撮った写真の味、あるいは現像してみないと写真の出来がわからない緊張感など、アナログの世界ならではの良さです。しかし,現実は圧倒的にデジタル化は進みました。

なぜでしょうか。デジタル写真は、アナログである銀塩写真と比較して利用者側のコストメリットや利便性が圧倒的に大きかったからです。気に入った写真は撮った中でも案外少なく、しかも失敗も多いのですが、デジタル化で、撮った写真はすぐに確認でき、失敗していればまた撮り直せるだけでなく、それがコストにならなくなったのです。プリントするにしても、気に入ったものだけプリントすればよくなりました。。さらにネットワークの効果が普及を促進しました。デジタル画像は、電子メールで添付して送れ、それがデジタル画像の便利さを伝えることにもなりました。

電子書籍はどうでしょう。紙の書籍の手触り感が好きだという人はいるでしょうが、それに近い人たちは、デジタルカメラ普及初期にも多かったのです。画質に開きが大きすぎたからです。画質があがるとともに、ハイアマチュアの人たちにもデジカメは普及していきました。
電子書籍の場合は、実は手触り感と思っているのは、ほんとうはそうでなく、新しい電子ブックリーダーにまだ慣れないことや、案外電子書籍化されている書籍の内容そのものへの不満かもしれません。前者は慣れれば違和感はなくなります。後者は、日本語のコンテンツはほんとうに少なく、本当の意味では比較が難しいのです。

コンテンツでいえば、体験からお話します。いつか泉鏡花の作品をもっと読みたいと、若い頃に全集を買ったのですが、読んだのはほんの一部でした。しかし最近、少しずつですが、また読み始めています。それは偶然、泉鏡花の作品をボランティアで電子化しているサイトがあることを知ったからでした。そのサイトをやっているのは、なんと知人でした。毎日少しづつ電子化した作品をサイト上で公開し、電子化したものはダウンロードできるのです。いつもで、ネットを開けば読める。この手軽さにはかないません。重い本をカバンにいれてわざわざ読むというのはいまのところ想像できません。
泉鏡花文庫『鏡花花鏡』

日本はまだ出版されている電子書籍が少ないのですが、青空文庫には著作権の切れた書籍が数多くストックされています。きっと書棚を探せばどこかにある作品ですが、、まず読み返すことはないものばかりです。しかし最近は、新幹線や飛行機のなかで読むようになりました。別に紙の書籍でなくとも、読み始めれば、その作品の世界に浸ることができます。

いずれも紙の書籍も持っているので、コストの問題ではありません。いつでも、どこでも、カフェでも、出張の移動中でも、ちょっとした仕事の合間に、読みたい書籍を選んで読めるという便利さなのです。その便利さが読書時間をこれまで以上に、広げてくれたのです。きっと書斎で読むのが読書だという人には縁のないことでしょうが、書斎で静かに読書に浸る人の数は知れています。

電子書籍によるユーザー側の利益は、安く買えることは大きいのですが、それだけではありません。目の悪い人の場合、電子書籍化されれば音声ソフトを使って聴くこともできるようになります。高齢化が進めば、視力が落ちてきますが、自由な文字の大きさで読める電子書籍は、老眼の人にも優しいのです。よく、電子書籍では、線を引けない、書き込めないから駄目だとおっしゃる人がいますが、それは誤解であって、たまたま使ったアプリケーションのソフトの問題に過ぎません。付箋をつけることも、マーカーを付けることも、メモを貼り付けることも、検索することも、そういった機能は逆に電子書籍は、もっと便利になってきます。

それだけではなく、電子書籍は、供給側、つまり作家や出版社にもメリットが大きいのです。だから市場でのプレイヤーがぞくぞくと登場してきます。どのようなメリットでしょうか。
まずは、出版リスクが大きく減少します。小資本でも出版が可能になってきます。いってみれば誰にでも出版ができるようになるのです。最初の印刷費がかからないばかりか、売れずに返本の山が帰ってくるということもありません。さらに在庫の負担がなくなります。在庫費用はほとんどゼロです。電子出版は、紙の書籍出版と比較して、圧倒的にコスト優位になります。既存の出版社が出版しなくとも、そのコストメリットを活かして出版する企業が必ず登場してくるでしょう。

誰でも出版でき、さらに出版側にコストメリットもある、さらに、いつでも、どこでも蔵書を持ち運べ、あらゆる空間が書斎化してしまい、ユニバーサルデザインそのものだとなると電子書籍の価値は大きく、イノベーション効果が読めるのです。
焦点は、どのようなカタチやメカニズムで、電子書籍の普及がブレークし、またどれぐらいの速度で、どの程度まで普及するかです。ここからがマーケティングの勝負です。

村上龍さんが、紙ではなくiPadで長編小説を出す可能性が高いことが記事になっていましたが、それがブレークすれば、それに続いて電子出版する作家も続々と登場してくるでしょう。そういった象徴的な出来事がブームに火をつけるのです。つまり、そういった企画ができる作家や出版社がまずは火をつける可能性が高く、最初は作家や出版社が普及を促進する鍵を握るプレイヤーになってくるのではないでしょうか。
おそらく電子書籍を供給し、誰もが簡単に買えるプラットフォームの競争は、その後に起こってくる。そんな予感がします。

株式会社コア・コンセプト研究所 大西宏

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大西 宏
株式会社ビジネスラボ代表

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