デフレは不況の原因ではない - 福島雅則

アゴラ編集部

–構造改革の必要性–

今日の日本の社会環境は先進国の中でも戦後どの国も経験したことの無い環境にあるといえます。社会構造のほとんどが、人口増加を前提にしている法律や社会慣習が放置されたままなのです。

人口増加過程の経済をプラスサム経済、維持過程の経済をゼロサム経済、減少過程の経済をマイナスサム経済とします。戦後人口増加過程の経済状態では毎年買換え需要と新規需要の両方の購買力が期待できます。毎年新しい世帯が増えていくために家電、車、住宅等々耐久消費財が各家庭に普及するまで経済全体の成長を続けることが出来るのです。


ある国のGDPの増加が労働人口の伸びと生産性の上昇の積であることは、ノーベル経済学賞をもらわなくてもわかることです。そもそもGDPとは、労働者の数に一人当たりの生産高をかけたものです。現在の日本は既に労働人口のピークを過ぎていると考えられます。労働人口の減少と、生産性の伸び率鈍化は、日本国全体のGDPの増加は止まっていると予測できます。

人口の減少と生産性の伸び率停止状態はマイナスサム経済と言えます。マイナスサム状態では新規需要が止まり買換え需要のみになってしまうので、例えば国内販売に限って考えれば、ある自動車メーカーで乗用車が沢山売れれば、他のメーカーの生産台数、売上が低下してしまうのです。結果的に全ての産業、企業で優勝劣敗の結果が表面化してきます。所謂、勝ち組み、負け組みです。プラスサム経済では新規需要が望めるのでシェアは変動しても、負け組みメーカーでも前年よりは生産量を僅かでも増やすことが出来るので雇用を維持できます。

結果として、負け組み不振企業から、勝ち組み業績良好企業への雇用の流動化が必要になるのです。構造改革は雇用の流動化を阻害するあらゆる法規制を撤廃し雇用者と労働者の垣根を低くすることです。多種多様な労働市場の育成が求められているのです。

流動化を阻害する法規制を撤廃すれば人材派遣業は必要ない。彼らはピンはねしてるだけ。企業が直接多様な条件で雇用すれば良い訳で期間従業員・アルバイト・フリーター・パート・正社員・準社員と言った人種差別的雇用概念が間違っています。雇用の流動化に反対している各種、団体・個人はA戦犯であり現在の日本は雇用循環型経済システムへの移行期と言えます。

–構造改革とデフレの関係–

人口増加が止まった段階で市場における新規需要の増加が減少し、買換え需要を中心とする市場へ変化する状況の説明は、「構造改革の必要性」でご理解いただけたと思います。詳細すると、例えば、人口一億二千万人、平均世帯員数三人、世帯総数四千万世帯の六割の世帯が六年周期で新車を買うとすれば、自動車の国内年間販売台数は四百万台くらいと推計できます。人口が一定で買い替え周期に変化がなければ、年間販売台数を大きく伸ばす事はできなくなります。年間販売台数が頭打ち状態になってくると限られたパイを企業間で奪い合う競争がより激化すると言えます。当然、同一車種間のコスト削減と値引き競争に発展することも予測できるわけです。従って競争の結果として、業績に企業間格差が生じ売上が減少する不振企業の存在は当然の事だと言えるのです。デフレが業績を悪化させているのではなく、限られたパイを奪い合うから競争の結果値引(デフレ)きもするし、業績不振企業も存在するのです。企業が横並びで毎年売上と業績を伸ばすことができるのは、人口増加を前提としているのです。多くの企業、業界で企業間業績格差とデフレが生じるのは人口増加が止まった段階で、予測できたのです。

では、企業間業績格差を否定(行き過ぎた市場主義、弱肉強食の論理と言っている人々)し横並びで売上を計上するには、市場における選択の自由を制限する他ありません。旧共産圏や昔の配給制同様、彼方はトヨタを買いなさい、彼方はホンダを買いなさいと、統制経済国家に逆戻りです。市場における選択の自由と、企業間業績格差の関係は、コインの裏と表の関係と同じと言えます。
選択の自由を制限して横並びにしますか?選択の自由を認めますか?私は自由を認めて不振企業が構造改革によって新規分野を開拓・創造・進出したり、雇用の流動化を促すべきと考えます。

–銀行の貸し出しがなぜ増えないか–
民間企業は、人口増加過程において毎年増産の連続で新規設備投資を必要としてきましたが、人口数の頭打ちと連動する需要数の一定化によって、現有生産設備を維持・補修・更新するだけで、現人口数が要求する需要に十分対応できる供給生産設備を保有しているわけですから、新規生産設備投資など不要です。研究開発費や現有生産設備の維持・補修・更新投資は自己資金で対応したり、大企業は社債や株式の発行、短期資金ならコマーシャルペーパーと間接金融から直接金融へ徐々にシフトしているので、銀行借入が減少するのは当然だし、銀行の収益源が、利鞘から手数料へ、ホールセールからリテールへ移行しているのも自然な成り行きと考えます。政府・日銀の金融緩和政策で低金利になっても、現有生産設備を超える需要を見込めない限り使い道の無いお金を借り入れる動機は企業にありません。

–まとめ–

人口増加が止まって既存、耐久消費財の買換え需要中心の経済状態に移行すれば、買い替え周期に変化が無い限り人口減少に比例して、需要も減少するのです。高度成長期の時代は、結婚して子供が生まれて三種の神器の家電製品やマイカー、マイホーム等々、あれも欲しいこれも欲しいと思っていたでしょ。
現代社会を見回してください。右を見ても左を見ても、三六〇度なーーんでも、余ってますよ。だからリサイクルショップが繁盛する時代になったのでしょう。企業がテレビを安いから買ってよってセールスしてもテレビを何台も何台も家に置けないでしょ。もっと平たく表現すると、この最高級お寿司激安だから買ってよって言われても、お腹がイーーパイで、入らないからお腹がすくまで(商品寿命)は要らないよって状態かな。最近のデジタル家電人気を考えてください。新規商品で、魅力があるから多くの人が買い求めているでしょ。既存の商品は供給超過でデフレ、新規需要を生み出す企業努力と官・民、含めた新規分野への構造改革がデフレ対策の必要条件とも言えるでしょう。

以上の証明から取り合えず、論点を五つ整理します。

・デフレは不況の原因ではない
・賃金の下方硬直性を前提とする学説は全て間違っている
・景気回復のために「同一労働・同一賃金」と「雇用の流動性」が必要条件
・的外れな中銀批判は批評する価値がない
・ブレトン・ウッズ体制は「海図なき航海」の限界へきている
・etc

(福島雅則 個人投資家)

コメント

  1. mukaihidemasa より:

    日本や多くの人口減少国があるのは事実だが、世界全体で人口減少といえるかというと違うのも事実だろう。

    確かに、たかだか明治以降に3千万人から1億2千万に急増した人口ボーナス時にできた社会保障制度が、猛烈な人口急減に突入して、持続できそうになくなったのは、世界全体を考えて解決するなどというのには無理があるだろう。

    だけど商売は日本の中だけを考えるガラパゴスなのは、無理があるだろう。

  2. nippon5050 より:

    はじめまして。

    おしっゃる事はいちいちもっともだと思います。

    ただ、外需についてはどう考えておられるのでしょうか?

    例えば韓国も少子高齢化が進み、労働人口の明確な減少が見込まれていますが、外需依存が強い為に(正確には輸入も多いので、経済における貿易依存が高い)
    デフレにはなってません。

    その一方で、将来にわたり労働人口が増え続けとわかっているアメリカはデフレの兆候が出ています。
    アメリカは日本より起業が旺盛で、規制もはるかに少ないですよね?

    これはおそらく社会における製造業の役割が重要だからではないでしょうか?

    長くなりそうなのでわたしの意見をまとめます。

    ・まず法人税を廃止して、規制(特に解雇規制)を緩和し、企業が経営の適正化を図る環境を整備する。

    同一労働、同一賃金も企業の裁量に任せるべき。

    それにより駄目な企業(経営者)が淘汰され、生産要素の流動性が起こるようにする。

    企業淘汰により比較劣位部門での輸入依存が進み、為替に市場メカニズムが働くようにして(円安にして)輸出もふやす(つまり経済の貿易依存を高める)

    解雇規制の緩和で不安定になる労働者の最低限の生活はベーシック・インカムで公正にそして最大効率で支援する。

    それでもデフレなら、貯蓄に課税し(マイナス金利効果を狙う)、同時に不動産や株取引などの収益の税金を減税して、リスクテイクのインセンティブを社会に与える。

    ゼロ金利でデフレなら日銀には出番はないですね。

  3. noutori より:

    人口減少で物事を整理するのは一見わかりやすいのですが根拠はあいまいです。人口減少が予見される国でデフレがいずれも生じているのかが検証される必要がありますが答えはNoです。
    物価は0に維持するにはコストと難易度が高いので、デフレかインフレかどちらを選択するのかという問題です。デフレよりインフレがましでしょう。何も投資をせず、リスクを取らない行為で1~2%の「利鞘」を稼げる経済に活力が宿るはずがありません。また制度はデフレを前提には作られていません(年金の物価スライド率の節減による年金会計の建て直しはあっても、デフレ時にはこのような手法がありません)。初歩的な2点をとってもデフレがより好ましくないのは明らかです(実質金利等と難渋なことを言わなくとも・・)
    以上の2点から中銀はデフレの脱却を目指すべきです。最近の研究では中銀のコミットが市場の期待を動かすには政府も引っ張り込んで中銀のコミットの「担保」を作る必要があります。
     人口減少だから、と一見わかりやすい説は解決策への思考を中断させるだけ。こんなことが「定説」のように扱われることこそ本当のガラパゴス危機だと思います

  4. izumihigashi より:

    日本全体の経済を好況不況で言い表すのは中々難しいですが、そうなると総需要の増大か減少かで見るしかないですよね。
    デフレが不況の原因ではないとするなら、総需要の現象がデフレ以外の別のものとしなければならなくなると思います。公共支出の減少?そんなことは無いでしょう。公共事業は増やしていませんが、公共支出は増大中でしょう。それでも総需要が伸びないのはやはりデフレに原因があるのではないでしょうか?ではデフレを止めることは出来るのか?需要が無いモノやサービスに対して無理やり需要を喚起するのには無理があると思います。
    規制緩和により新たな市場を創出することが総需要現象を食い止める鍵になると思います。新たな市場って何?これが難しい。常人では理解できないけど、どこかの先駆者が創出し、それに他の人が追従して盛り上がるものが、新たな市場です。
    デフレとか供給過剰な状態です。でも今まで無いものを生み出し、皆がそれ欲しいと思えばその物に関してはインフレになります。そうして総需要を膨らませる事。これが不況脱出の鍵です。
    評論家には出来ない芸当です。事業家だけが出来る芸当。

  5. katrina1015 より:

    労働人口のピークは今年ですか?
    GDPと労働人口の関係ですが、
    今年はGDPの予測で1~2%の成長率では
    なかったかとおもいますが、いまいちぴったり
    きませんね。試算で2025年労働人口7%減
    でGDPは下がるでしょうか?
    というか、今後GDPが下がるなんてのは
    許されないと思いますよ。ま、死ぬときぐらいは贅沢したいですね。高い棺桶でもうりますかw
    デフレ行動としか言えないですかね。。。

  6. 福島 雅則 より:

    nippon5050さん的確なコメント有難う御座います。ご指摘の内容に付いて少しですが、説明致します。

    >ただ、外需についてはどう考えておられるのでしょうか?

    今回は国内のデフレに絞った内容で、国外については又の機会になります。

    >例えば韓国も少子高齢化が進み、
    >労働人口が増え続けとわかっているアメリカはデフレの兆候が出ています。

    日本のデフレ現象には大きく三~四つの原因(理由)があると、分析しておりまして、今回説明の人口減少原因説はその一つであります。ご指摘の韓国やアメリカも残りの二~三で証明(説明)可能であり、nippon5050さんにもご納得頂けると確信いたしておりますが、ブログなので今回は省いた次第です。残りの分析をご理解頂ければ、デフレは悪・インフレは善であるかのような瑣末な議論が如何に不毛で幼稚な言説かご理解いただけますが、これも又の機会にさせてください。少しだけ予告すると、今後、先進国(途上国は別)では平時である限り人口が増えても消費者(生活必需品)物価は安定推移します。騰がるのは資産(金融資産や不動産)価格位でしょう。非常時においては、その限りではありません。

    >ゼロ金利でデフレなら日銀には出番はないですね。

    日銀原因説に固執したい人達は、今更、自説を曲げることによる権威の喪失とアイデンティティが許さないのかもしれません。今月8日・9日の日本経済新聞・経済教室は良い論点(現状を認識する意)が披露されており、お勧めいたします。最寄の図書館で読んでください。

    この程度の内容すら理解せずに的外れな批判を垂れるド素人は、批評するに値する金融の基礎知識を弁えてから、発言して頂きたいものです。

    中銀が今求められているのは、デフレの対応ではなく他にありますが、その職責を果していない現状は猛省が求めれれます。

  7. nippon5050 より:

    わざわざお答えいただきありがとうございます。

    たしかに外需まで話を広げるとモデルが複雑になりますね。
    基本的に福島様の意見に賛同しています。

    デフレは確かに不況の原因ではありませんが、デフレ、デフレと騒ぐと本当に不況を招き入れてしまいかねません。

    本来予定されていた投資や消費(住宅の購入など)が手控えられ、マインドが冷え込んでしまうかも知れません。

    まぁこのあたりの事も含め、福島様の今後のエントリーを楽しみに待ちたいと思います。

    リフレ派の人々の確信犯的な論調には悪意を感じます(クルーグマンは単なる勘違いかも知れませんが)。

    市場メカニズム重視の提言は政治家も採用しませんし、安定志向(わたしもその一人ですが)でリスクテイクを回避する日本人には不人気です。

    本が売れませんからね。

    結局リフレ理論は貧困ビジネスとして利用されているのでしょう。

    だから池田先生が内閣に呼ばれる日は来ないでしょうが(笑)

    それでは失礼させていただきます。

  8. ghi555 より:

    人口減少は不景気の一因ですが、
    明らかにデフレも不景気の強力な原因だと考えます。
    過去の人口が増加している時期、例えば高度経済成長時代ですら、
    工業製品などは常に強烈な価格下落圧力にさらされています。
    それが不景気に転化しなかったのは、人口増、販売数量増、製品サイクル
    など他の要素がカバーしていたからです。
    また、デフレや不景気は日本国内の需給だけでは説明できません。
    ユニクロなどのように、製造コストが安い国で製造する事により
    製品価格の大幅な下落をもたらしています。あるいは同業他社との
    国際競争に負ける事があり、これも日本経済にダメージを与えています。
    また、かつてより製品サイクルが早くなり利益を回収しにくくなっています。
    グローバルな要因を抜きにデフレと不景気を語ることはできないと考えます。

    ところで構造改革が供給側を強くするから駄目という人がいますが、
    かなりの珍説に聞こえます。供給側が強ければ売上、利益、雇用が
    どんどん増えます。サムスン、 GEなどの名前をあげるまでもなく
    一般的な事例でしょう。