「靖国参拝」を冷静に考える時期に来た―65年の百家争鳴は永すぎる - 北村隆司

2010年08月20日 10:00

8月14日に東京都内で開かれた「愛国者の集い」を主催した右翼団体一水会の鈴木邦男顧問は、「自国を愛することが他国の排斥につながってはならない。そのためにも愛国者が直接交流することが大切だ」と述べ、この集まりに出席した欧州8カ国の右派政党幹部達を案内して靖国に参拝したと言う。


英国紙の日本特派員がこの参拝事件を「日本のナショナリストと連合国側の愛国者が、手を携えて靖国を参拝する。普通の感覚では理解できない」と驚くのも尤もであるが、フランスの右翼政党「国民戦線」のルペン党首が「立場に関係なく、国のために戦った人に尊敬を持って参拝するのは当然」と内外の報道陣に語ったと聞き、わが耳を疑った。

事あるごとに、中韓両国を排斥してきた日本の右翼や、移民反対論というより有色人種と回教徒への差別発言で物議を醸してきたルペン党首が、この様な穏健で冷静な考えを本気で信じているとすれば諸手を上げて歓迎したい。

それに比べ、靖国不参拝を巡る新聞論調は、外交や政局と絡ませた主観的な批判記事が多く見られ、産経新聞に至っては :

「靖国神社にまつられている幕末以降の戦死者の大半が先の大戦の死者だけに8月15日の参拝の意義は大きい。特に、首相が国のために亡くなった国民の霊に哀悼の意を捧(ささ)げることは、国を守るという観点からも、重要な国家の責務なのである。 今回、菅内閣の閣僚が参拝しないことも、中国や韓国のメディアは好意的に報じている。近隣諸国にのみ配慮し、戦没者の霊に背を向ける首相は、日本のリーダーとしての資質が疑われよう。」

と参拝問題を利用して内閣批判をするばかりか、管首相の個人攻撃までするなど突出した感情論を展開した。

内閣の不参拝方針が、外交上の配慮や政局に絡んだ思惑だけでで決められたとしたら甚だ遺憾であるが、多くの基本的問題を抱える靖国参拝問題をこんな単純な事で決めたとは信じたくない。

一方、記者の憶測だけで結論を出したり、個人の主観を新聞と言う公的媒体を使って発表する報道が多く見られる事も国民を混乱させている。靖国不参拝を巡って管首相の資質に疑問を呈した産経の記事を読むと、「資質」を問われるのは寧ろ報道側ではないかとさえ思えた。

因みに、新聞協会が発表した「新聞倫理綱領」には、「新聞の責務は、正確で公正な記事と責任ある論評によってこうした要望にこたえ、公共的、文化的使命を果たすことである。 正確と公正な新聞は歴史の記録者であり、記者の任務は真実の追究である。報道は正確かつ公正でなければならず、記者個人の立場や信条に左右されてはならない。論評は世におもねらず、所信を貫くべきである。 新聞は、自らと異なる意見であっても、すすんで紙面を提供する。」と国民に約束しているが、政党のマニフェスト以上に実行されていない綱領の典型であろう。

この論争で思い出すのが、広島・長崎の原爆資料館と靖国の与えるインパクトの違いである。広島・長崎の原爆資料館は国籍、信条を超えて「戦争の残酷さ」と「平和の貴重さ」を強く訴える「力」を感じるが、「靖国」「遊就館」を訪れて鎮魂の気持ちになる人が何人いるだろうか?

新憲法発足と共に始まった日本の新秩序は、「朝廷」への忠誠を政治的に利用した戊辰戦争の勝利者が、新政府軍側のみ祀り、旧幕府軍や奥羽越列藩同盟軍の戦死者を排除する等、日本を分割させて始まった靖国建立の起源も問題を複雑にした。

憲法で定めた政教分離の解釈、A 級戦犯合祀の是非、天皇と靖国、戦争責任とアジア諸国等々、靖国を巡る課題は大きく、国民全体を巻き込んだ大議論を展開する価値のある重大問題である。

永年に亘り終戦(敗戦)記念日を戦争相手国で迎えてきた私は、反日感情が強いと聞く韓国に在住する日本人の気持ちはさぞやと言う感慨を禁じられない。

国家法人説に基ずく「天皇機関説」に説得力を感じ、政教分離を厳格に解釈し、靖国の祀り方に疑問を持ち、A級戦犯の合祀に反対する私は、公職にある者が靖国に参拝する事には賛成出来ない。

だからと言って国民が揃って「無名戦士」に敬意を表する環境も場所もない日本の現状や、靖国参拝を愛国の踏み絵としたりアジア外交のリトマス試験紙に利用する風潮にも我慢がならない。

戦後65年を経た今日でも解決しない実情を齎した一因は、「靖国」を巡って怒鳴りあいはあっても、真摯な論議が行われてこなかった事にあるのではなかろうか?

無名戦士や戦没者への鎮魂と敬意を表せる場所として、広島、長崎の記念碑の様に国民が挙って賛同する施設が出来るのは、いつのことであろうか?この様な場所が無いままに、65回も終戦記念を迎える日本にはそろそろ終止符を打つ時期である。

百家争鳴を通じて、国民がこぞってその霊を慰める場所と環境を整備する事こそ、我々に与えられた戦没者や無名戦士へ義務ではないだろうか?

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