「パンとサーカス」になった事業仕分けは、国民的なコンセンサスが必要に - 石川貴善

2010年12月23日 22:29

財政状況が大幅に悪化している中で2011年度の予算案が策定されましたが、その予算作りの根拠となります今年の事業仕分けは、次第にアプローチが予算縮減ありきで荒くなっていることから、実際に身近な日常生活にも影響するようになりました。

具体的な例として、以下の3点を取り上げます。


1)商工会議所/商工会の創業塾廃止
開業率を高めて経済活性化を行うため、各都道府県の商工会議所/商工会で創業を考えている方への創業塾が、経済産業省や中小企業庁の補助金をもとに数千円~1万円程度で行われていますが、5月の事業仕分けで翌年度以降の廃止が決定されました。

筆者も実際に受けましたが、経営ノウハウ以前に事業計画やビジョンの策定など少なからず得た点がありました。特に店舗開店を目指す場合には、政府系金融機関の融資条件として創業塾を修了し商工会議所などの推薦が必要となりますので、開業率が低下している中でハードルが高くなる面は否めませんし、雇用対策の一環として就職だけではなく新規開業といった選択肢も無視できません。

当時の仕分けの経緯を見ますと「効果が見えない」「民間の創業支援と重複している」「創業の本がたくさんあるため、本を読めば十分だ」と、実情を把握せず単純に判断する荒っぽい印象を受けます。

2)電子書籍におけるフォーマットの統一化
2010年はiPADなど読書端末の発売により、「電子書籍元年」となりました。11月の再仕分けで、国内の統一中間フォーマットには予算が付きましたが、次代フォーマットとなりますEpub日本語版の仕様確定の予算計上が見送りとなりました。

iPADのデータ形式は英文・横書きが前提で、日本語の縦書きやルビは想定されていません。仕分け人とのやり取りを見ますと、「PDFで十分ではないか」「iPADを知らないので文字の拡大などわからない」ということになりましたが、実際にPDF形式のみでは読みやすさに大きく影響しますので、国内で今後見込まれる電子書籍市場の拡大と知の再生産をスポイルすると言わざるを得ません。

3)防衛大学校の受験料徴収と学費償還
厳しい景気動向の中で家庭の事情などから、学費のかからない防衛大学校の受験者数が増えています。その中で模試代わりとなっているため受験料の徴収と、途中で退学・任官拒否した場合の学費償還が仕分けの議題となりました。この内容の問題点は下記の3点にあります。

(1)入試は模擬試験の色合いもあるものの、同時に防衛省職員の採用試験となるため、受験料の徴収そのものがなじまない。

(2)学費償還に関しても、6時30分の起床から22時30分の消灯まで、国旗掲揚から降下までが「勤務時間」、授業は「課業」となり全員が加入を義務付けられる体育会のクラブ活動も任務となっているため、仮に任官拒否を行っても日常生活の中で税金に見合った任務を果たしている。

(3)この事業仕分けは尖閣列島の漁船事件の後で安全保障に関する関心が高まり、議員・仕分け人共に批判を恐れて慎重になってしまい、また防衛省内でも制度見直しを行っていることから、そもそも仕分けを行う意義が薄かった。

事業仕分けは政権交代の起こった2009年には、公約実現のためのムダな予算削減とその手法が世論・マスコミ共に評価されましたが、次第に苦しい財政事情と政策目的のために本来の目的が薄れ、本来ならば経済活性化や人材育成などの投資や、安全保障などのインフラ的な費用にもかかわらず、全体的な視野やバランスに欠けた内容が目立つようになってきました。

また当初は「官のムダ」に焦点が当たっていましたが、次第に国民生活に直結する内容が増えていますので、長期的に事業仕分けの意義や必要性は理解しても懸念を持たざるを得ません。2011年度の予算案を導き出すここ数回の個別の事業仕分けから見ても、子ども手当や高校無償化などの予算作りや、「パンとサーカス」として話題づくりに事業仕分けを行うこと自体が自己目的化している印象を強く受けます。

今後は仕分け人の人選・議題の抽出・進行方法や仕分け結果の拘束力など、国民的なコンセンサスが求められるものと考えます。
(石川貴善 有限会社ITソリューション 取締役 twitter:@ishikawa_kata)

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑