なぜ「財政破綻させるべき」論がないのか? ‐ 伊東 良平

2011年03月04日 12:47

日本の財政状態を考えるとき、「日本は財政破綻をするか」の議論ばかりで、「日本を財政破綻させるべきか」の議論が見当たらない。これの議論はタブーなのか。

日本は経常黒字を毎年計上しており、国内の資金循環だけをみれば、国民の金は余っており、対外資産が年々積み上がっている。このことから、日本国政府が外的要因から「財政破綻」することはないのは明らかである。このような状況下で国の債務を解消する方法は、増税により積み上がった国債を消却するか、国債を直接・間接的に中央銀行が買入れてインフレにするか、どちらかの「選択」しかない。


この選択の違いは、増税は政策決定により行われるが、インフレは不作為に起こる、という違いだけである。ではインフレになるとして、終戦直後のようなハイパーインフレが起こるか。答えは「ノー」である。

日本円は、国際通貨として国内外の金融機関が決済以外の目的で多額に保有している。仮に日本の通貨価値が膨張して価値が大幅に減ると、世界各地の金融機関と投資家が円を売る。円が売られれば当然円安になるが、日本の国内産業の輸出競争力が増すため、日本経済の崩壊のクッションになる。現在の日本が終戦直後と違うのは、現在の日本には十分な「生産手段」があり、日本経済に不足しているものは、エネルギーや鉱物などの「資源」だけである。

日本のこれからの「財政破綻」により起こることは、円安による資源インフレである。円の国際的価値が1/4に下落し、石油の国内価格が今の4倍になっても、米の生産が回復して10キロ4000円ほどで買えれば、水資源が豊富なわが国経済は、「崩壊」しない。

日本国民に将来に待ち受けているものは、ショック的なハイパーインフレではなく、5年から10年で徐々に進行する円安である。円安がスタートするのは、高齢化と生産人口の減少が進み、経常収支が赤字に転換したときだろう。その後の日本人は、対外資産を「切り売り」して鉱物資源と食糧を手に入れなければ、生活を続けられない。

日本はここ20年間、経常収支の赤字による自国通貨安を経験していない。そのため多くの「識者」は円安が長期で進行すると何が起こるのか、を論じてこなかった。このため多くの国民が、円安継続下における経済運営のあり方を「体感」していない。恐らくはバブル期とは反対の現象である、資源インフレと資産デフレ(バブル期は逆が起こった)が進行すると思われるが、それによる日本経済への影響の程度と内容が、想像できない。

日本国の債務を政策的に解消する方法は将来の増税しかないが、増税は現在資産のない国民にも負担がかかる。インフレは国民全体が苦しむものであり、為政者は通常インフレを恐れるが、通貨価値の下落によるインフレは、資産のない者には負担が小さい。毎日の消費を労働で賄っている「勤労者」には、円安は自らの労働市場での競争力が高まるため、国内の生産要素の基盤がしっかりしている限り悪いことではない。対して日本円で資産を持っている者にとっては、円安は保有資産の目減りを意味するので負担になる。

日本の財政破綻を本当に食い止めようとするならば、増税を考えるのではなく、いっそのこと国債費を減らすことを考えればよい。つまり国債の満額償還をやめるのだ。

それが「財政破綻」だというかもしれない。それは違う。企業も「破綻」させる前にADRなどの方法で救済することがある。国も同じように救済する手がある。国家の大幅な「リストラ」を条件に、国債の償還額を切り下げ(国の借金の棒引)る。民間の金融機関にはあらかじめ「通告」して、事前に国債を売らせる。郵貯銀行は債務超過の会社として、債権者(貯金者)に債権放棄(貯金の減額)を求める。
 
すなわち、日本国を「計画倒産」させるのだ。日本の「財政破綻」が突然起こればショックが大きいが、国債の価値が徐々に目減りする(金利上昇と円安の同時進行)方法を取れば、日本国民は生き延びられる。現在の日本は、国の債務(国債)が増え続け、国民の国に対する債権(貨幣)が増え続けているだけである。貨幣という債権も、貸し倒れることがある、と思えば、生活は維持できる。

資産のない者に税負担を掛ければ、生活が立ち行かなくなり、「死を選ぶ」者が増える可能性が高い。一方、資産のある者から資産を奪っても、生活を脅かすほどでなければ、「死の危険」はない。これからの日本に必要なのは、通貨という「債権」の放棄要請と、その代価としての「国のリストラ」である。
(伊東 良平  不動産鑑定士)

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