かくして、米バーナンキの「量的金融緩和第二弾(QE2)」は、「正義」となる!

藤井 まり子

リビア内乱を受けて原油価格がNYWTI先物価格で1バーレル100ドル前後の高値を付け続けています。
けれども、21世紀で原油価格が高値水準で高止まることは、信じられないことかもしれませんが、21世紀の世界経済全体にとっては実は「とてもとても好ましいこと」なのです。


バーナンキが11月3日に発動した量的金融緩和第二弾(「QE2」)は、その直後から、資源コモディティー分野などで「バーナンキ・バブル」「バーナンキ・インフレ」を形作りました。
この「バーナンキ・バブル」は、今回のリビア内乱を受けて、今まさに新しくステージへと登り、今まさに「新エネルギー・ブーム」を形作ろうとしています。
以下、この「新エネルギー・ブーム」の始まりと言う、「新しい変化の中身」を眺めてゆきましょう。

【昨今の情勢】
12月にチュニジア革命が始まり、チュニジア革命は1月にはエジプトに飛び火しました。2月に入ってから、民主化を求める反政府運動は、北アフリカ全土・中東全土にいっきに燃え広がっています。

リビアでも、カダフィ退陣を求める反政府運動が熾烈化し、2月20日あたりから、リビアは内乱状態に陥っています。

リビア内乱を受けて、原油価格が急騰。アメリカNYのWTI先物価格は、1バーレル100ドルの大台を繰り返し繰り返し突破してしまいます。

IEA(国際エネルギー機関)の試算によれば、原油価格は1バーレル100ドル台を突破すると、先進各国の経済はスタグフレーション(物価高の中での不況)に陥り、その成長は減速するとのこと。

けれども、今現在進行形の「バーナンキ・インフレ」「バーナンキ・バブル」は「新エネルギー・ブーム」へと新しいステージに登ることでしょう。

【「有事のドル買い」が起きなかった!】

為替市場では、リビア内乱が熾烈(しれつ)化しても、ドルは対ユーロでも対円でも弱含みで推移しています。
今回ばっかりは、「北アフリカや中東でのアメリカの影響力の低下」を反映して、ドルは対ユーロでも対円でも値上がりしませんでした。
「有事のドル買い」が起きなかったのです。
そして、この「リビア内乱では、有事のドル買いが起きなかったこと」は、とてもとても重要です。
これは、「21世紀のアメリカの新モンロー主義への移行」を象徴する「歴史的にもエポックメーキング」な出来事です。

【アメリカの「新モンロー主義」】

財政難のアメリカ・オバマ政権を筆頭に、NATO軍は、今年2011年7月から「アフガニスタンからの撤退」を開始する予定です。

今回の「リビア内乱」を引き金にした「2011年2月からの北アフリカ・中東情勢の緊迫化」は、「本来ならば2011年7月からのNATO軍のアフガニスタン撤退」を引き金にした「中東情勢の緊迫化」が、想定していたよりも半年早く、「ミニチュア版」みたいに、始まったようなものです。
「2月から始まったリビア内乱」は、「7月から始まるはずだったアフガン撤退」を待たずして、「北アフリカ・中東での反政府運動の高まりによる原油価格の急騰」を半年早く演出したのでした。

ここで大いに注意すべきは、バーナンキ・アメリカFRBは、「本来ならば7月から始まるはずだった原油価格の急上昇」にしっかり照準を合わせて、「量的金融緩和第二弾(QE2)」の発動の期限を6月末日に区切っていたことです。

「昨年2010年秋から始まった資源エネルギーバブル」をなんとかは弾けさせないために、バーナンキFRBは、「QE2」を2011年7月までの「つなぎ」として発動した疑いがかなり高いのです。
バーナンキは、「QE2」を利用して、資源コモディティーバブルをあおり、このバブルを、「2011年7月のNATO軍のアフガン撤退開始」で始まるはずの「原油価格の急騰」へと、つなげようとした疑い(可能性)は、かなり高いのです。

日本を除く世界経済は、ルービニNY大学教授の言葉を借りると、「マルチスピード」で激しく変化し成長しているのです。

アメリカ・オバマ政権は財政難の中で、今年に中間選挙を迎えます。
どんなにリビア内乱が長引いたとしても、あるいは反政府運動が中東の二大石油大国であるサウジアラビアとイランで勢力を持つようになったとしても、オバマ政権が、大量の赤字国債発行が必要な「リビア内乱への『大規模』な軍事介入」、「中東への『大規模』な軍事介入」へと、打って出られるわけがありません。
ただでさえ、アメリカの有権者の間では、7年にもわたった対イラク戦争で、厭戦気分が広がっています。
財政難の中ではオバマはリビア内乱に大規模介入できません。
大金融危機後の21世紀では、アメリカははっきりと「新モンロー主義(海外諸外国の政治には干渉しない主義)」へと傾いて行っているのです。

そして、アメリカの「新モンロー主義」によって、北アフリカ・中東情勢は、大戦争は起きないまでも、今後は緊迫化を続けます。
アメリカと言う名の覇権国家を失いつつある北アフリカや中東では、大戦争は起きません。しかしながら、部族間同士の小競り合いは長引き、イラクとイスラエルの緊張は高まり、北アフリカ・中東での中国やロシアの発言力はよりいっそう高まることでしょう。

かくして、北アフリカや中東では、不安定な状態が長引き、21世紀では、原油価格がじわじわじわじわと上昇を続けます。

そして、21世紀では、原油価格が高止まることは、すなわち、目先ならば1バーレル100ドル前後で高止まることは、信じられないことかもしれませんが、実は、21世紀の世界経済全体にとっては、「とてもとても好ましいこと」なのです。

【「2008年前半のミニ・オイル危機」を学習する。】

さて、2008年前半のWTI先物価格の推移を眺めてみましょう。
サブプライム危機が表面化し始めた2007年秋から、欧米のヘッジファンド達は、内外の株式市場ではこれと言った優良な投資先を見つけられなくなりました。
その結果、彼らヘッジファンド達の当時の投機マネー(ホットマネー)は、資源コモディティー分野へと一斉になだれ込みました。

WTI先物価格は、2007年秋には、1バーレル90ドル台を突破、2008年前半には、さらに急騰して、1バーレル100ドル台を突破。その後、WTI先物価格は、暴騰に次ぐ暴騰を繰り返し、2008年7月11日には一時的にも史上最高値の「1バーレル147.27ドル」を付けてしまいました。

2008年1年間だけ見ても、「先進国から資源国への『富の移転(所得移転)』は、わずか1年間だけで、3兆ドル(日本円にしておよそ240兆円!!!)規模に達した。」との試算があるほどです。2008年前半は、「ミニオイル危機」が起きていたのです。

一説には、「この2008年前半のミニオイル危機が、2008年秋の世界同時金融危機の勃発を多かれ少なかれ必要以上に早めてしまった。このミニオイル危機は、アメリカ政府の国内の金融危機対策を後手後手に回らせてしまい、結果としてリーマン破たんショックを意図せずして引き起こしてしまった。」という見方があるほどです。

その後リーマンショックを境に原油価格は1バーレル40ドル台まで大暴落します。

以上、2007年から2008年の原油価格の極端に激しい乱高下は、石油の需給構造の変化だけでは全く説明できません。
この乱高下は、すべからくヘッジファンドたちの投機がしでかしていたことです。

けれども、ヘッジファンド達は、2008年初頭から夏にかけて、以下の三つを学習しました。
・原油価格は1バーレル100ドル以上にまで暴騰させてはいけない。1バーレル100ドル以上の暴騰は、世界経済成のスタグフレーション懸念で、成長を減速させてしまう。
・かといって、原油価格は暴落させてもいけない。原油価格を1バーレル80ドル以下まで暴落させてしまうと、ロシア・ブラジルなどの資源国の経済は疲弊し、さらには、新エネルギー・バブルさえも起きなくなり、先進各国の経済成長さえも減速させてしまう。
・資源国および先進国が、「資源高」と「新エネルギー・バブルの形成」とで、Win-Winの関係を持続させるためには、原油価格は「理想は1バーレル90ドル以上、100ドル以下」あたりかもしれない。

彼らヘッジファンド達も馬鹿では無いので、「『原油価格1バーレル90ドル台から100ドルの狭いレンジ』でしか、自分たちは暴れられないということ」は、よくよく理解しているはずです。

なぜならば、彼らがこの狭いレンジで暴れている限りにおいては、アメリカを始めとする各国政府の規制当局もバーナンキFRBも、彼らヘッジファンド達を2008年・2009年のように、厳しく規制・監督することは無いからです。
けれども、彼らヘッジファンド達が「原油価格1バーレル100ドル」を大きく上回って暴れ始めたならば、各国規制当局もFRBも再び彼らを厳しく取り締まり始めることでしょう。

【「バーナンキ・バブル」から「新エネルギー・ブーム」へ。
-かくして、バーナンキの「QE2」は「正義」となる!―」】

「リビア内乱」が引き金となって、半年ばかり早く、北アフリカと中東の情勢が緊迫化しました。
アメリカが想定していたよりも半年ばかり早く、原油価格の急騰が起きてしまったのです。
そして、今まさに、「バーナンキ・バブル」が「新エネルギー・ブーム」へと変化しようとしているのです。

けれども、21世紀では、原油価格が高止まることは、とてもとても「素晴らしく素敵な事」なのです。

なぜならば、
原油価格が急騰して高値圏で推移する限りにおいては、オーストラリア・ブラジル・ロシアなどの資源国と、日欧米などの先進国とが、「資源高」と「新エネルギー・ブームの形成」とで、Win-Winの関係を持続させられるからです。
言い換えると、
資源価格がコンスタントに上昇して高止まっていてくれるからこそ、新エネルギー関連(新エネルギー関連は、あらゆる産業分野・企業分野に及んでいます!)の企業の業績も向上するといった、「資源高と経済成長とが共存できる関係」が初めて持続可能となるからです。

今の世界経済は、経済学者スティグリッツの言葉を借りれば、
「アメリカがドル紙幣を大量に刷って中国にドル紙幣を輸出し、中国はそのドル紙幣を大量に受け取る見返りに、自国内で深刻な環境汚染を引き起こしながら、アメリカへ大量の有毒なガラクタを輸出している」状態です。

資源制約(=資源の有限性)が強く働く21世紀では、資源コモディティーを大量に爆食する中国にも非があるのです。

人為的に安く据え置いた中国元を後ろ盾にして、限りある地球資源を湯水のように使って、安かろう悪かろうの有毒なガラクタ(使い捨て)製品を先進各国へ大量に売りさばいている中国も、大変悪いところがあるのです。

バーナンキFRBの「マネーのバズーカ砲:QE2」が無かったならば、中国は今まで通り、環境を破壊し続けて、有限の地球資源を爆食し続けていたことでしょう。

文化的な生活を求める数十億人が一斉にグローバルマーケットへ参入してくる21世紀では、限りある地球資源は出来る範囲で大切に使わなければけません。
みなが大切に限りある地球資源を使うためにも、資源コモディティー価格は高止まらなければならないのです。

さらに、人口爆発時代の21世紀では、農業に従事している人々が報われるためにも、この地球から「飢え」をなくすためにも、より多くの人々が農業に一斉に参入して、より多くの農作物が耕作される必要が是非ともあります。
そのためには、農作物の価格も高止まる必要があるのです。

バーナンキFRBの「QE2」(量的金融緩和第二弾)は、人道上も「極めて正しいこと」を行っているのです。

かくして、「バーナンキバブル」は、「正義」をゲットしたのでした。

2011年3月は、「バーナンキ・バブル」が「新エネルギー・ブーム(バブル)」へと変身する瞬間となることでしょう。

「バーナンキ・バブル」は「新エネルギー・バブル」へと変化し、2011年・2012年の世界経済は再び力強く拡大再生産を始めることでしょう。

【個人的なウェットな感想】

私も、個人的に、バーナンキFRBの「量的金融緩和第二弾(QE2)」が11月3日に発動されたことに対しては、当初は大いに違和感を抱き、大変戸惑ったものでした。
コモディティー価格の値上がりは、グローバル規模で多くの貧困層の生活をさらに苦しめることになる「邪道」だと、当初は感じていたからです。
バーナンキは鬼になったかと思いました。

経済も金融も本来は人を幸せにするためにあるものですから、「人道上、倫理上、非道なものや蛇に通じるもの」は、経済学的にも大きく間違っているはずです。
ですから、私の中ではバーナンキの「量的金融緩和第二弾(QE2)」への思いは、発動後も長らくかなり複雑なものがあったわけです。

「人道上、邪に通じる非道な手段では、ブーム(景気回復)は始まるはずはない!」といった斜に構えた気持ちで、私も当初はバーナンキの「量的金融緩和第二弾(QE2)」を眺めていたのでした。

ところがどっこい。
ふたを開けてみると、資源コモディティー・バブルを始め、「バーナンキ・インフレ」は、人道上の「正義」をしっかりと内包している「ブーム」「バブルの始まり」だったのでした。

資源や資源価格の動向は、マクロ経済では、一般には、抑制要因として働くのだそうです。資源や資源価格は、純粋に学問的なマクロ経済では、未だにすっきりと説明しきれないところが多いのだそうです。

けれども、以上の結論は、かつて資源エネルギー専門の調査機関で働いていたことのある私が、ここ半年余りの内外マーケットを綿密に観察して、やっと至った結論です。

日本国内の資源エネルギー関係の民間の調査マンは、1980年代90年代の資源価格の低迷時代に、長らく日陰の身に甘んじざるをえませんでした。民間の資源エネルギー関係の調査マンは、今ではほとんど壊滅状態に近い状態になっています。

それでも、一人でも多くの方々に、このブログ記事を読んでいただきたく、筆を執った次第であります。

藤井 まり子