東京電力のブランドをリカバリーする方法 - 青山永

2011年06月07日 15:26

前回、「ブランディングの視点から見た震災」という記事を書き、その最後に「傷ついたブランドを建て直すのは、新たにブランドを確立することよりも難しい場合が多い」という記事を書きました。今回は震災で最もブランドが毀損した企業といえる「東京電力」のブランドについて、いかにすればリカバリーすることができるのか考察してみたいと思います。
 
リカバリー案を考えるにあたっては、少し時間を遡ることになりますが、リスクマネジメントの観点を参考にして、「平常時」「緊急時」「復旧時」の3つのフェーズに分けながら話しを進めてみたいと思います。
 
まず「平常時」、つまり震災前までの東京電力のブランド価値について整理してみます。ブランド価値とは、そのブランドが持つ根源的な価値という意味合いにおいて、ブランドアイデンティティを示すことがありますが、ここでは、ブランドが持つエクイティとして話します。
 
 


わかりやすい1つの指標として、日本経済新聞社が国内有力企業を対象に「企業ブランドスコア・ランキング調査」を発表しているので、これを見てみましょう。この測定方法の特徴は、顧客や、さらには、従業員や株主の認知や忠誠心という視点も盛り込むことで、ブランド価値をより広く捉えている点と、コーポレートブランドをキャッシュフローへと転換する企業力・組織能力がどれほどあるか、あるいはそのための事業機会にどれほど恵まれているかを考慮している点です。

2010年度版において、東京電力は27位、コーポレートブランド価値は 592,061百万円と算出されていて、日本企業においてかなり上位に位置する企業ということがわかります。ただ、スコアにおいては521ポイントで、これだけで見ると順位は129位となってしまうところも興味深いです。
さて、なぜ東京電力が数々のグローバルブランドと肩を並べるに至るのでしょうか。この調査のスコア算定方法を十分把握しきっている訳ではないので、想像の部分が大きいのですが、東京電力のスコアが高まる要因は次のように考えられそうです。

① 多くの消費者は電力に関してはほぼ代替の入手先を持っておらず、東京電力に対する「忠誠度」は結果として高まらざるを得ない。
② 東京電力の「認知度」は、その広告露出度などからも非常に高く、しかも安心して取引できるブランドと認識されている。
③ 東京電力の電力供給における「品質」は全く問題なく、停電を意識することが全くないほど信頼されていた。
④ 東京電力株が安定運用先の代表として語られるように、その企業の「安定性」「継続性」には疑う余地がなかった。
⑤ 東京電力から供給される電力の多くが、原子力発電によって賄われていたことを強く「連想」することはなく、また原子力発電自体についても、そのリスクを「連想」することはなかった。
以上の理由から東京電力のブランド力が形成されていたのではないでしょうか。これらの想像は、D.A.アーカー教授の提唱する「ブランド・エクイティ」のコンセプトも参考にしながら考えてみました。こうしてみると、意外と東京電力は巧みなブランドマネジメントをしていたのではないかと思えてしまいます。
しかし、リスクマネジメントについては、全くそうではなかったことが、今回の震災で露呈してしまったようです。
 
そこで次のフェーズ、リスクが実際に発生してしまった直後における、東京電力の「緊急時」対応について整理してみましょう。この局面において行うべきは、「謝罪」「原因究明」「再発防止」「賠償」「処遇」の5つに絞られると考えます。今回の場合、元は自然災害に端を発していることや、被害があまりにも甚大であること、民間企業の事業という側面と国策という側面とが絡み合っていることなど、とても複雑な状況のため、すべてに関してそう容易に判断を下すことができないのですが、東京電力のリスクコミュニケーションの悪さは平時における準備の甘さとその本性を露呈させたように思えます。

そのため緊急時での情報発信において、一貫性と継続性を持った対応が出来ず、メディアとの信頼関係を作ることができませんでした。もちろん、当時の会見などを見ますと、取材する側の姿勢にもかなり問題があったようには思えます。しかし、それを踏まえても、メディアのその先にいる読者、視聴者を意識しなければならないこと、内輪の理屈や常識をもちだしても逆効果なことなどがわかっていないのは明らかで、もともと顧客志向のない企業のうえに、メディアトレーニングを受けていない人間に対応させている時点で、終わっているとしか言いようがありませんでした。

震災から3か月立ちますが、まだこの局面から脱しておらず、「原因究明」「再発防止」「賠償」「処遇」に関してなにも明確には定まっていない状況です。引き続き東京電力のコミュニケーションをウォッチし続けなくてはなりません。
 
 そして最後に、今後の「復旧時」について考察をしてみましょう。ここで特に留意したいのは、「元に戻ることはありえない」という事です。これは、単に「ネガティブ」な意味でも、かつてない程の被害を生じさせているという「程度」の問題でもなく、一度毀損したブランドは、震災前のブランドと同じに戻ることは不可能で、回復することなく消え去るか、困難を乗り越えて従前よりも良いブランドになるか、どちらかであるという事です。このどちらかになるかは、ブランドマネジメントの領域でも、リスクマネジメントの領域でもなく、その事業体自身がイノベーションを起こせるかに掛かっています。

日本における今後の電力事業については、私は門外漢なので踏み込んだことは言えませんが、東京電力の復活には下記の2つがポイントになるのではと考えます。

第1は「発電と送電の分離問題」です。送電部門を売却することで資金調達が行えること、電力会社の地域独占が解消されて競争原理が働くことでイノベーションが促されることが考えられます。
 第2には「いかなる発電方法と向き合うのか」ということです。これについては次の3つのオプションのいずれかを達成することで復活の象徴とすることが考えられます。1つ目は、かなりの期間新設は不可能としても、あきらめずに原子力発電のイノベーションを追求し続け、安全かつ経済的な原子炉を実現するというオプション。2つ目は、自然エネルギーに限らず、原子力発電に替わる様々な新しい発電方法を追求するというオプション。3つ目は、あらゆる前提条件は無視して、自然エネルギーによる発電に徹底的にこだわっていくというオプションです。どれが良いのかは、それこそリスクとリターンとコストについて、多面的なステークホルダーに照らし合わせて決めればいいでしょう。
 
傷ついたブランドを建て直すためには、徹底した行動を取るしかありません。繰り返しになりますが、一度毀損したブランドは、元と同じブランドに戻ることは不可能で、復活することなく消滅するか、困難を乗り越えて従前よりも強いブランドになるか、どちらかであると思います。
 
そもそも「ブランド」や「ブランディング」は新しい学問領域であり、所謂「突っ込まれやすい」テーマではありますが、無理を承知で考察をしてみました。皆さまはどのようにお考えになるでしょうか。

(青山永  株式会社齊藤三希子事務所 代表取締役)

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑