増税するなら正々堂々と:所得税の仕組みから考える

2011年12月16日 22:30

社会保障と税の一体改革の他にも「政府税調:所得税の最高税率上げ検討…消費増税に合わせ」というニュースがありました。民主党政権はいまだに社会主義的な政策を志向しているということがわかりました。

裕福な人により大きな負担を押しつけて,現在の財政問題を解決することはできません。サービスを受ける人がその負担をするという健全な制度がない限り,解決の見通しはたちません。このニュースのような累進性の強化案は実際のところ財政の改善にはほとんど意味がないでしょう。(もともと,消費税を引上げる代りのパフォーマンス的な要素があるかもしれません。それこそ社会主義への道ですが。)


私は,復興増税は別にしても,現状でさらに増税することに納得はしていません。まずは,支出の見直し,特に社会保障を中心に配分の見直しがなされないと,どのちみ財政問題は解決しないからです。増税を避けられないなら,ごまかすような案ではなく,また「子どものための手当」などという冗談のような調整はせず,政治は誠実に行財政(特に社会保障)の改善をして,正々堂々と増税負担を国民にお願いすべきだと考えます。

さて,増税の問題を考える上で重要なのは,その負担を一部の人に押しつけるだけで解決することはできないということです。こちらの記事(「消費税率アップへの物語」 )でも使用した国税庁『民間給与実態統計調査結果』のデータを基に給与総額の分布を図にしてみました。ここでは人数ではなく,構成比率×給与で,厳密ではなくおおまかな総額の分布の形を求めてみます。この図をみると,おおざっぱにどの所得層にどれくらいの税率引き上げで,どの程度の税収の違いがあるのかがわかります。(額は意味がなく,ここでは相対値をみます。)

Tincome2011

お金持ちは人数が少ないので,その層の給与総額もそれほど多くはありません。そのため,富裕層だけ税率を上げても税収はそれほど増えないでしょう。おおむね300万円~500万円の給与の人に一律1%増税するときの税収が,(税への労働供給弾力性を考えなければ)1500万円~2000万円の人の税率を5%増税するのと同じくらいになるようです。2%分なら10%です。

次に重要なのは所得税課税の仕組み(超過累進課税方式)です。税額は単純に「所得税率×所得」になっていません。実は,高所得者の税率アップという累進性の強化策は見た目ほどの影響はありません。

ところで,この仕組みの実際を知らない方もいると思います。そこで,年収から給与所得控除だけ引いて,実際の税額が年収に応じてどれくらいなのかを図にして,わかりやすく(?)してみました。地方税(所得割10%)分も加えています。(もちろん,実際の税額は人によって異なります。)

Incometax2

制度のポイントは,例えば税率は195万円「」までは5%というように,「」が入っていることです。したがって,1000万円の所得の人でも,その所得の195万円分までの税率は5%だけです。

図では,それぞれの年収について,税率ごとの税額を色分けして積み重ねています。例えば,年収1000万円の人は,給与所得控除後の所得が780万円になり,税の総額は193.8万円となっています。(ただし,実際には他の控除があるので,さらに少ない人が多いでしょう。)その税額の内訳は以下の通りです。

9.75万円(10%分)+13.5万円(20%分)
+73万円(23%分)+19.55万円(33%分)+地方税分

仮に900万円分までの税率を10%プラスにしたとしても,年収の1/10の100万円増税にはならず,総額は8.5万円しか増えません。税率の議論のニュースを読む時には,このような感覚が重要だと思います。

この図から考えると,今回の案による税額変化は赤い矢印で示されているようなものになります。

この図の制度はほとんどの人にとって関係がありません。関係が無いというのは,給与所得者の95%程度がオレンジ点線の枠内に収まるからです。私だったら財政を考えるときにはこの枠外の富裕層からの税収についてはあまり頼りにしません。仮にこの枠外で何とかしようと累進性を高め,ある程度の税収を得ようとすると,相当税率を高めなければなりません。社会主義国の完成ですが,それでいいのでしょうか。

ただより高いものはない(結局は政府の借金が増える)というのが,この頃,身にしみてわかるようになってきましたから,サービスとその負担を可能な限り結びつけるべきだと思います。累進性を高めると,社会保障改革がなおざりになったり,変な支出も増えたりで,借金がさらに増えないとも限りません。国民が広く負担する中で,財政規律を求めていくべきだと考えます。

その点では消費税が望ましいのですが,私は,財・サービスの価格弾力性が様々な中で,消費税は市場をゆがめる力が働きやすいのではと予想します。消費税の引き上げだけに頼らず,所得税も組み合わせる方が良いのではないでしょうか。あるいは,私は特に地方税の引き上げにより,よりサービスと税負担をリンクさせる方法もあると思います。その時重要なのは,全体で負担するということです。累進性でごまかすことはできないと思います。

岡山大学経済学部・准教授
釣雅雄(つりまさお)

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