ソーシャルメディアと組合活動

田代 真人

読者の方々の中には組合に馴染みがない方も多いと思う。いわゆる前世代的なものと思う方のほうが多いだろう。そもそもほとんどのITベンチャー企業には組合なんで存在しないというのが現状だと思う。

ただ現政権の最大のスポンサーが大組合組織だと知ったら、多少は意識してもいいのではなかろうか。いや、別に現政権の批判をしようというわけではなく、いまのフェイスブックはじめソーシャルメディアの現状を見ると、組合活動への影響を無視できないのだ。


いうまでもなく現民主党政権の最大のバックグラウンドは、連合である。連合とは日本労働組合総連合会の略称。wikipediaでは、以下のような記述がある。

2009年9月に連合が支持する民主党・社民党の連立政権成立後は、政権を積極的に支持する意向を固め、民主党側も2010年に行われる第22回参議院議員通常選挙への連合の協力を呼びかけた。

加盟組合がこれだけあるというのも驚きではある。しかしこれらが現政権の支持団体だと思うと、社員を大切にして派遣社員を切り捨てる民主党の方向性もわかるというものだ。

さて、ところで、ソーシャルメディアがなぜ組合活動に影響するのか? 影響するというか、「アラブの春」よろしく、民衆の“団結”は、経営者も為政者も妨げることはできないという時代に突入したということだ。

以前は、とにかく経営者にとって、従業員は自分たちのいいように使うものであって、彼らの希望を受け入れるものではなかった。しかし、昭和22年の労働基準法の制定もあり、彼らも会社側にそれなりのことを要求するようになった。しかし労働基準法に「労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし」というような表現があるように、要求のためには従業員が一致団結する必要があった。団結することによって力になりうるわけだ。とはいえこれは経営者にとっては、要求を受け入れるためにはコストもかかることので、なるべくなら応じたくない。

そこで経営者は組合員の団結力を弱めるために、個々の事業所を離すなど策を練った。つまり、一つのビルに労働者が固まると、彼らはリーダーの一声で集まり“団結”するから、団結しにくくしたわけだ。一人ひとりの訴えは無視できる経営者も、団結されて集団となるとまともに向き合わなければならない。それを防ぐために、手っ取り早いのは物理的に事業所を分けて、お互いがコミュニケーションしにくくすることが必要だったのだ。

その場合、リーダーは“オルグ”をするために各所を回ることになる。オルグとは、組合の考え方を組合員に伝え歩くことである。組合は、専任組合員をもち、それだけの時間と経費をかけて、昇給や福利厚生などを“勝ち取る”ために、経営者と対峙していくわけだ。

しかし、ソーシャルメディアが普及したいま、オルグはネットでできる。また団結を呼びかけるのもフェイスブックで充分なのだ。意見や考え方は“シェア”してしまえば、伝わるし、伝わってしまえば、団結も容易い。もはや物理的な集合も必要なく、理念や考え方を同じくして、心の団結は日常的である。

独善的に世の中を動かしたい為政者や経営者にとって、国民や働く人々が反対方向に団結することほど嫌なことはない。だからこそ中国は、いまだにツイッターやフェイスブックは許されていないのだ。ツイッターに似た「微博」というものもあるが、海外からの影響を受けないだけまだマシという方向でガス抜き程度に許されていると思われる。

つまり、マスメディアが没落し、ソーシャルメディアが台頭してきた現在社会では、新たな考え方の上で方策を練らなければ、経営者と従業員、政治家と国民という関係も構築できない。だが、そのことに気づいていない政治家や経営者がいまだ多数である。ソーシャルメディアの時代、情報は上意下達ではなく、同時に横に拡がるもの。自分たちのビジネスにソーシャルメディアを利用しようとする動きはあるが、それ以前に従業員との関係、政治と国民との関係にソーシャルメディアを利用することのほうが先なのではなかろうか。

(田代真人/編集者・マイ・カウンセラー代表)