ビックカメラのコジマ買収は家電業界の再編連鎖を加速させるだろう

2012年05月14日 11:54

アマゾンを舞う1匹の蝶の羽ばたきが、遠く離れたシカゴに大雨を降らせるというバタフライ効果よりもはるかに確実に家電業界を変える可能性をもった出来事が先週ありました。ビックカメラによるコジマの買収です。このことがきっかけとなり、家電量販の統合の動きを促すだけでなく、思わぬ変化が生まれてくることが予見されます。
家電不況をひきおこした最大の原因は薄型テレビです。そしてそれは来るべきして来たわけですが、薄型テレビがたどってきた経緯を振り返ってみると、家電エコポイント制度と地デジ化がいかに市場を歪め、また業界を翻弄したかの足跡を見ることができます。


最悪だったエコポイントと地デジ化移行
家電エコポイント事業は、地球温暖化防止、経済の活性化、地上デジタル放送対応のテレビの普及を目的として実施されたものです。しかしとうぜん予測もできたことですが、やはり消費の先取りを招く結果でしかありませんでした。エコポイント運用制度変更を控えた2010年末には駆け込み特需があり、国内の液晶テレビは空前の売上となります。
その後の2011年6・7月には地デジ移行の駆け込み需要がありましたが、こちらは小さく、しかしその後にやってきた反動は液晶テレビメーカーのみならず、家電量販が受けた打撃もはかりしれません。

SONYやシャープ、またパナソニックなどは、海外メーカーの脅威をほとんど受けない日本市場という最後の砦も崩れ、海外での不振に加え、稼ぎの場を失い、巨額の赤字を膨らませることになりました。皮肉なことに家電メーカーの業績差は、液晶テレビへの事業依存度で決っています。
また家電量販も最大手のヤマダ電機も2011年4月から2012年3月までの通期で、グループ全店の売上が前期比83.3%の大幅減です。他の家電量販も軒並み売上が激減しています。そんななかでは、いちはやく「脱・液晶テレビ」シフトに成功したケーズデンキだけが業績を維持させました。
ケーズデンキが「脱・液晶テレビ」シフトに成功し好調
業界はこの反動を読めなかったのか、あるいは読まなかったのでしょうか。技術的にも、市場も成熟してしまった液晶テレビにはイノベーションや戦略転換が求められていたにもかかわらず、特需があったことで危機感が薄れてしまったとしか思えません。家電エコポイントや地デジ化で市場が送ってきた間違ったメッセージに、まだまだ液晶テレビは売れる、地デジ化によって市場を活性化させると錯覚してしまったのでしょうか。

さらに地デジ化は必要のない転換でした。デジタル化では、BSを利用すれば、地デジ化への放送局の1兆円を超えた投資ももっと圧縮できたでしょうし、また電波帯ももっと空いたはずです。また今後増えていくインターネット回線利用の道を広げることもできたのではないでしょうか。地デジ化は放送局の変革をも遅らせ、またスマートテレビ化を遅らせる障害にもなってきます。

家電業界がどう変わっていくか
報道でも伝えられているように、業界4位のビックカメラが業界5位のコジマを買収することによって家電量販としては、第二位のエディオンを抜き、ヤマダ電機に続く第二位に躍り出ます。まだヤマダ電機の2兆円規模からすればまだ二分の一程度ですが、購買力が高まりメーカーとの価格交渉力が高まります。

マイケル・ポーターは、ビジネスの収益性に影響し、また圧力とも脅威ともなる5つの関係を示しました。企業は同業者との直接競合だけでなく、新規参入、間接競合となる代替品、供給業者、そして顧客としての買い手との力関係による脅威もあり、それらをすべての関係によって究極の収益性も決まってくるというものです。

家電量販も、同業者間の競争だけではありません。マイケル・ポーターが示した、新規参入でもあり、代替品ともなるアマゾンなどのインターネット販売業者との競争も抱えています。今回の買収は、対家電メーカーとの交渉力を変化させますが、購買力の違いによって競争力も変化してくるので、下位の家電量販は、それに対抗するためには合併などで規模を大きくするか、あるいは競争から逃れる差別化が求められてきます。

もし、今回の買収劇で家電量販の再編が玉突きのように起これば、厳しくなってくるのは、家電メーカーです。さらに納入価や納入条件が厳しくなってきます。規模で対抗しようとすればライバルとの事業統合が起こってきても自然なことです。量販再編が家電メーカー再編にも波及する可能性も否定できません。

もうひとつ考えられるのは、家電量販も家電だけを取り扱っていては成長が望めません。成長のためには同業者間の競争に勝つだけでなく、業容を広げていきたいところです。総合スーパーやコンビニエンスではプライベートブランドの拡充をはかってきていますが、家電量販も規模が大きくなると、当然プライベートブランドの開発に向い、それによって扱い品目を広げてくる可能性がでてきます。
ヤマダ電機はすでに、住宅会社のエス・バイ・エルを買収し、さらに自社ブランドのシステムキッチンの販売を行なっていますが、もともとは日立グループに属していた住宅機器メーカーの「ハウステック」の全株を取得することを発表しています。つまり、家電量販が企業買収によって製造能力を持ち、プライベートブランドで扱い商品を広げてくる流れがでてくることも考えられます。
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ヤマダ電機、住設大手100億円で買収 省エネ住宅で連携 – ニュース – NIKKEI 住宅サーチ :

現実のなかではどうような変化が起こって来るかの予断はできませんが、客観的に構造を俯瞰するとこの5年ぐらいでなんらかの変化が起こって来ることは間違いありません。日本は過当競争の激しい市場ですが、小売の統合が進むことで、さらに小売り業の寡占化と小売主導の時代にはいってくることは避けられなくなっているように感じます。

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大西 宏
株式会社ビジネスラボ代表

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