進展の可能性大、森元首相による北方領土交渉 --- 岡本 裕明

アゴラ

延期されていたプーチン大統領との協議に森喜朗元首相を派遣する方向で調整すると報道があります。そして、安倍政権が発足後、森元首相を場合により特使とする公算もあるとのことです。普通の人ならば読み飛ばすぐらいの記事だと思いますが、私は非常に注目しています。

まず、森喜朗氏はすでに議員を引退しています。その森氏に場合によっては特使にしてプーチン大統領と交渉の足がかりを作らねばならないというのはそれだけ外務省のロシアスクールとロシアに強みを持つ政治家が育っていないということであります。


ご記憶にある方も多いかと思いますが、外務省ロシアスクールと称する当時のロシア専門部隊は田中眞紀子氏が外務大臣の時、および、2002年の鈴木宗男事件で一掃されたとされています。当時のロシア交渉で前面に立っていたのが政治家では鈴木宗男、森喜朗で外務省は東郷和彦、佐藤優といった布陣でした。戦後の中ではどう考えてもその頃が北方領土返還交渉が進んだ時期にあったと思いますが、田中氏らがぶち壊したのは周知の事実です。

ただし、外務省内では東郷和彦氏に対する風当たりは強く、最近でも外務省内では評価は低いとあるところから聞いております。ちなみに祖父の東郷茂徳氏は日米開戦時の外務大臣、そして終戦時の外務大臣で知る人ぞ知る近代外交史の中ではキーパーソンとなる人です。更にその娘婿が東郷文彦氏で外務次官となっています。

さて、私は北方領土交渉に関しては近いうちに動くと以前このブログで書かせていただきました。今でもそう思っております。そしてボールはどちらに投げられているかといえば日本にあると考えています。

ロシア側は歯舞、色丹は返還するつもりがあるので最近の国後、択捉でのインフラ拡充に対して明らかに手を抜いている状況にあります。その二島を先行返還とみなすのか、これで打ち止めとするのかの解釈上の問題では揉めているわけですが、私は打ち止めのニュアンスが近いと思っています。二島ならば国土面積を考えれば7%しかないのですが、海を考えた場合、40%以上にはなる(境界線の引き方でぶれます)ため、漁業上はメリットがあるとされています。

ではプーチン大統領がもともと予定していた12月の野田首相との会談はなぜ流れたかといえば日本側はプーチン氏の健康上の理由としていますが、ほかの国でトップ会談をこなしているわけで単に日本の政権交代を見越した上でレームダックの民主党と話しても進展はないと判断したものと思われます。だからロシア側からやんわりと断りを入れたと考えています。

とするならば森元首相の再登板は正解だと見るべきです。そして森元首相にどんな土産を持たせるかが最大のキーポイントになりますが、私ならウラジオストックのLNG基地の開発促進協力と天然ガスの将来の購入のコミットメントではないかと思います。今の状態ならばLNG基地完成は2017年ごろとされ、アメリカ、カナダに先を越される可能性が高いのです。そのため、少しでも良いディールをするには一日でも早い完成が求められるということです。

あとは日本側の政治力と外務省の交渉能力次第ですが、四島返還論をいまさら出しても100%解決する見込みはなく、国後、択捉をどう、ポジショニングするかが唯一の交渉余地だと思います。では時が来るまで待つか、という選択肢については、見方を変えれば決められない政治家の判断という言い方も出来ます。歴史に残るかもしれない汚点となれば誰でも嫌なものです。

しかし、たとえば日米安保の際の岸信介元首相は当時国民から本当に睨まれましたが結果としては安保があったからこそ、日本は世界第二の経済大国になれたわけで評価は時代と共に変わってくるのです。

そこを踏まえれば森さんは既に議員もお辞めになっていますから思い切った判断と突っ込んだ交渉が可能ではないかと思います。期待しております。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2012年12月24日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。