「官民ファンド」に続く民間ファンドへの期待

2013年06月13日 11:17

「官民ファンド」の雄、産業革新機構は、ソニー、東芝、日立製作所の各社それぞれの中小型ディスプレイ事業を統合して、新会社ジャパンディスプレイを創出した。画期的な事業再編である。もしも、産業革新機構がなかったら、仮にジャパンディスプレイが生まれたとしても、それは、三社の共同子会社という形で発足したであろう。


共同子会社であろうが、事実上の撤退には違いなかったのである。しかし、見かけ上は、事業統合であって、撤退ではない。日本の産業界では、この撤退にならないことが、事業再編のなかの重要な要素になってきたのではないのか。おそらくは、撤退ということが事業の失敗と受けとられることを避けたいのである。

しかし、冷静に考えれば、撤退は、事業の再編にすぎないのであって、失敗ではない。事実、三社の中小型ディスプレイ事業に価値がないということではなかったのである。巨大な三社の多数の事業のなかに埋没していたからこそ、三社のなかでは価値が発現しなかった。それは、三社の内部的な経営問題であって、客観的に中小型ディスプレイ事業に価値がないということではないのだ。

事業再編というのは、まさに、このような状況の打開のためにあるのでだから、事業再編に伴う撤退は、失敗した事業、価値のない事業の整理ではない。そもそも、価値のない事業は廃止するしかないわけで、価値があるからこそ、再編の対象になるのだ。そこを、冷静に考えたほうがいい。

もっとも、価値があるからこそ、完全には手放せないわけだから、共同子会社方式でもいいのだ。ただし、子会社の経営がきちんと行われるのであれば。共同子会社方式の致命的な欠点は、経営責任の所在が不明確になってしまうことである。事業再編の理由は、事業の価値の問題ではなくて、経営の問題であったはずである。であるから、経営のあり方を変えないと、意味がない。そのためには、単なる事業再編では十分ではなく、資本の再編による経営の刷新が必要なのだ。

実際、共同子会社方式の事業再編の事例はたくさんあるわけで、ルネサスエレクトロニクスも、そういう例だった。これは、三菱電機、日立製作所、NECの半導体事業を統合して生まれた会社で、典型的な共同子会社方式の事案であったが、案の定、うまくいかなかったのだ。そして、これも、産業革新機構を中核とする株主連合に大規模な第三者割当増資を行うことで、結果的に、産業革新機構が69%を所有する会社に再編された。

三菱電機、日立製作所、NECは、新生ルネサスエレクトロニクスの少数持分を持つにすぎなくなり、まさに、完全に撤退したことになる。こうなるなら、最初から、共同子会社ではなくて、完全に資本的に独立した会社として、ルネサスエレクトロニクスを創出しておけばよかったのだ。

ただし、問題は、それだけの巨額な資本を供給できるプライベートエクイティの投資ファンドが、当時も今も、日本にないことなのだ。ゆえに、巨額な政府資金を投じた「官民ファンド」としての産業革新機構が、どうしても必要だった。

資本の力による経営の刷新こそが、資本主義の核心部であるのに、その経営刷新が政府機関にできるのかという批判は当然にあるだろう。ただ、産業革新機構は、役人の集合ではなくて、主に民間出身の専門家の集団である。そもそも、役人であるとか、政府機関であるとか、それは外形の問題であって、内容の良し悪しとは関係がない。要は、結果だ。ここに、産業革新機構の重責がある。世の批判には、口では応えられない。結果と実績で、産業革新機構の正当性を証明するほかない。

資本再編には、強い指導力と強い資金力が必要だ。日本の現実として、この二つの強い力を兼ね備えたものは、産業革新機構しかない。それは認めざるを得ない。もっとも、それでいいのかと問われれば、よくないといわざるを得ない。しかし、事実は事実として受け入れるほかはない。

安倍首相も、これでいいとはいっていない。あくまでも、「呼び水」といっている。「呼び水」というのは、二つの意味がある。一つは、経営行動の変革を促すことであり、第二は、資金の出所として、純粋な民間資金が流れるようにすることである。

その意味では、とにかく、ジャパンディスプレイなどの産業革新機構の投資案件の成功を祈念するほかない。画期的な成功事例は、日本の産業界の経営行動に大きな影響を与えると思われる。同様な事案が続々と生まれ、既存の共同子会社方式のものも、完全な資本分離と経営責任明確化の方向へ、急速に再編されることを望みたい。

そのなかで、難しいのは、資本の調達ではないのか。米国や英国を例にとれば、1980年代の初頭にはじめられた資本市場整備のための金融制度や税制の抜本的改革があるからこそ、今日、巨大なプライベートエクイティの運用会社による純民間の資本再編ができているのである。日本の場合、そのような金融制度改革はできていない。事実として、多数の大規模なプライベートエクイティの投資ファンドを作りだすだけの民間資本の力はない。ここが、政府として、次に早急に工夫しなければならない重要なところであろう。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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