ギリシャ危機にみる「展望のなさ」の本当の理由 --- 長谷川 良

2013年07月06日 11:46

「ギリシャ危機で最悪なことは物質的欠乏だけではない。わが国は戦後、貧窮を体験している。新しい点は将来に対する展望、見通し(Perspektive)がもてないことだ。社会は方向性を失い、目標を失っている。ギリシャ青年たちはこの社会の見通しの欠如に悩んでいる」

「危機は職場と収入と生活水準を奪うだけではなく、何のために働くかなどの展望を失うことで、将来に対する確信も奪っていく。大戦直後、国民は生存のために戦ったが、方向性は明確だっだ。欝や自殺する国民は多くなかった。しかし、今日、自殺者は増加し、国民は未来への信頼を失ってきた」

オーストリアのカトプレス通信によれば、クレタ(ギリシャ正教会)正教会のイレナオイス総主教はジャーナリストたちの質問にこのように答えている。


「展望のなさ」、「見通しのなさ」(独 Perspektivenlosigkeit)という言葉が頻繁に使われてきた。ギリシャ正教会の指導者だけではない。社会学者、経済学者までがこの言葉を使う。オーストリアの社会学者が青年たちの将来への展望について調査した。それによると、多くの青年たちは自身の未来に対しては楽観的だが、社会の展望については「見通しがない」という印象を深めていることが調査結果で明らかになった。

失業率の低いオーストリアに住む青年たちは恵まれているのだろう。スペイン、ポルトガル、ギリシャでは「失われた世代」と呼ばれるほど、青年たちはかなり追い込まれている。欧州通貨ユーロ加盟国17カ国の首脳会談が開かれたが、テーマは「青年の失業者問題の対応」だった。欧州の指導者たちは青年たちの鬱屈した状況がいつか暴発するのではないか、と深刻に懸念しているのだ。

ところで、展望、見通しはどこから来るのだろうか。社会からか、国からか、それとも漠然としているが、世界からだろうか。もう少し、卑近な表現をすれば、経済成長だろうか。失業者を吸収し、新たな雇用を拡大できる4%以上の成長率だろうか。

独週刊誌シュピーゲル最新号には独哲学者マルクス・ガブリエル教授(33)とのインタビューが掲載されていた。同国最年少の哲学教授(ボン大学)といわれる同氏は、「人間には精神(魂)があることをインド哲学では久しく主張してきたが、欧州ではプラトン、アリストテレスたちが精神、思考を理性的な秩序原則の5感覚(視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚)と対立するものと受け取ってきた。しかし、精神、思考は本来、人間が有しているもう一つの感覚だ」と主張する。そして、その第6の感覚、精神、思考が人間をして人間らしくしていると考えている。

なぜ、ガブリエル教授の発言内容を紹介したかというと、わたしたちが直面している「見通しのなさ」「展望のなさ」は、国民経済の世界(5感の世界)からというより、精神、思考の世界(第6の感覚)からの叫びではないか、と思ったからだ。わたしたちの精神、思考が将来の展望を描ききれず、焦燥感に陥っているのではないか、と考えるからだ。

そこで、「人間は何のために存在するか」という有史以来の問いかけに真剣に取り組むことで第6感の精神、思考を再活性化すべきではないか。「展望」と「見通し」は本来、精神・思考からもたらされるものだからだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年7月6日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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