非在来型ヘリウムの供給能力とコスト試算 --- 河原 心平

2013年10月12日 08:43

前回、「どうなる、再生できない「ヘリウム」の需給」では中長期的視点において原子力技術が新たなヘリウム供給源となるのではないかと述べました。その予測についてTwitter上ではいくつかの批判が寄せられました。それを受けて、在来型ヘリウムの代替となりうる原子力ヘリウム、大気中ヘリウム、固体地球ヘリウムについて供給能力とコストを試算し、どれが未来のヘリウム供給をメインで担うことになるか予想してみることにします。


2050年のヘリウム需要はどのくらいか

在来型ヘリウムはあと25年で枯渇すると言われており、2040年頃には経済的にペイするものはほとんど残っていないと考えられます。しかし成長の限界に差し掛かった直後であるためその影響について考慮しなければならず、世界が大混乱の挙句新たな定常状態に落ち着いたであろう2050年代のヘリウム需給を考えてみることにします。

前提条件として化石燃料は枯渇し、世界のエネルギー消費量は現在の半分の年間50兆kWhで、そのうち半分が原子力、もう半分が自然エネルギーで賄われていると仮定します。人口は最悪なペースで減少が進んだとしても現在の半分と考えられますが、ヘリウムは需要崩壊が予想されるため現在の1/10、年間1700万m3と仮定します。

ヘリウムを生成する核反応

ヘリウムにはヘリウム3とヘリウム4の2種類の同位体が存在します。そのうちヘリウム4の核はアルファ粒子として知られており、非常に安定しているため様々な核反応で生成します。実は宇宙全体では炭素や酸素よりも遥かに多く存在しているのですが、その理由については機会を改めて述べることにします。ヘリウム3および4を生成する反応としては具体的に以下のものが知られています。

238U → 206Pb + 84He (1)
235U → 207Pb + 74He (2)
6Li + n → 3T + 4He (3)
7Li + n → 3T + 4He + n (4)
9Be + n → 24He + 2n (5)
10B + n → 7Li + 4He (6)
2D + 3T → 4He + n (7)
2D + 3He → 4He + p (8)
3T → 3He + e (9)

(1)と(2)はウランの崩壊系列で、全反応で7、8等量のヘリウムを生成しますが、タイムスケールが億年単位ですので実用的ではありません。(3)、(4)、(5)、(6)は中性子による核分裂反応で、ウランやプルトニウムの核分裂で発生する中性子を利用して反応を起こせそうです。(7)、(8)は核融合で、重水素とトリチウムまたはヘリウム3が反応するとヘリウム4が生成し、バリオンが1個余ります。(8)では電荷を持った陽子が出てくるためコントロールしやすく、(7)と比較して安全性が高いとされています。(9)はトリチウムのベータ崩壊です。

核分裂性軽元素と熱中性子からのヘリウム生成

まずは現在の技術でも可能な軽元素の核分裂によるヘリウム生成コストを考えてみます。現在の風船用ヘリウム価格は1モル(22.4L)あたり125円程度です。原料の方は、1等量のヘリウムを生成するリチウムが4円/モル、2等量生成するベリリウムとホウ素がそれぞれ40円/モルと5500円/モルですので原料はリチウム以外ありえません。しかしリチウムはヘリウムに比較して十分に安く、原料価格が律速となることはなさそうです。

次にリチウムを核分裂させるのに必要な中性子を考えてみます。100万kW級の軽水炉では年間1トン、4200モルのウランが燃えています。一度の核分裂で2個の余剰中性子が発生すると仮定すると8400モル、その10%をリチウムと反応させたと仮定すると840モル、すなわち19m3のヘリウムが発生することになります。

世界全体で年間25兆kWhの電力が核分裂型原発で生み出されていると仮定するとその出力は28億5000万kW、生み出されるヘリウムの量は年間54000m3となります。これは予想需要である1700万m3の0.3%にしかなりません。

しかしながら将来はリチウムとベリリウムのフッ化物塩を用いた溶融塩型原子炉が主流となる可能性があるため、その場合は電気の「ついで」として安いヘリウムが得られることになります。この反応で副生するのはトリチウムぐらいで、それは酸化することで容易に除去できます。核施設が消費するヘリウムはこれで賄えるかもしれません。

D-T核融合によるヘリウム生成

2050年の原発のうち10%分の2億8500万kW分が核融合型になったと仮定してヘリウムの生成量を予測してみます。

CNICのWebサイトによると、100万kWの核融合炉を1年間運転するために消費されるトリチウムは130kg、1000m3です。得られるヘリウムの体積も同じです。この仮定では世界全体で生成できる量は28万5000m3、予想需要の1.7%に過ぎません。リチウムを核分裂させる段階を含めたとしても3.4%です。

重元素の核破砕によるヘリウム生成

水素やヘリウムのような軽い元素は核融合、ウランのような重い元素は核分裂(アルファ崩壊含む)でエネルギーを放出します。この最終的な落とし所は鉄で、鉄よりも重い元素であれば安定同位体でも理論上は吸熱的なアルファ崩壊が起こり得ます。しかし消費するエネルギーがお話にならないほど莫大であるため2050年の時代背景にそぐわないと判断し、ここでの議論は割愛させて頂きます。

原子力ヘリウムは供給の主役になり得ない

結論として、原子力ヘリウムは入出力エネルギーに比較して生成量があまりにも少なすぎるため、世界のヘリウム供給の主役にはなれなさそうです。ただ、核施設が磁石の冷却等で消費するヘリウムは自給できるかもしれません。

その2では引き続いて大気中ヘリウムと固体地球ヘリウムの供給能力と価格を検証してみます。

河原 心平
豊充風船商店 代表

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