オーストラリアとスイスの人件費はなぜ高いのか --- 岡本 裕明

2014年02月11日 12:28

トヨタ自動車がオーストラリアの生産拠点を閉鎖すると発表しました。これは昨年にGMが同様の発表をしたことに続くものでこれでオーストラリアから自動車生産の拠点はなくなります。GMにしてもトヨタにしても多くの工場労働者を他の部門に振り替えながらも一定数の解雇は避けられないでしょう。しかし、この決断はトヨタやGMが悪いものではありません。同国の政策がそうさせてきたのです。


一方、スイスは国民投票で移民の数を制限することを僅差ながら可決しました。外国人がスイス労働市場の25%を占めるに至り、自国民の労働機会の損失を訴えていたものでスイス国民にとっては喜ばしい結果かもしれませんが、これでスイスはさらにヨーロッパ大陸の中で独立独歩の姿勢をさらに強めるということになります。

この二つのニュースが同時に飛び込んできたのできょうはこの二つの事象をもとに意見を書かせていただきたいと思います。

オーストラリアとカナダはある意味、似た国家体質と言われています。それはエリザベス女王を象徴的トップとするイギリス連邦の国家であり、政治、経済的にはアメリカと密接な関係を持っている点でしょうか? 両国とも資源国家である点も似ています。ところがカナダとオーストラリアは決定的に相違する点があります。それはカナダはアメリカとの間に世界一長い国境(アラスカを入れれば9000キロ近く)を持ち、アメリカからすれば51番目の州とも揶揄された時期すらあります。

そんなカナダからすればアメリカは原油の最大の輸出先(アメリカからすれば中東を抑え最大の輸入元)であり、五大湖周辺のカナダ側からはアメリカへの工業製品の輸出拠点が並んでいます。製造業を州経済の要とするオンタリオ州にとってはそれこそアメリカが風邪を引けばオンタリオは肺炎では済まなくなるのです。

カナダ経済はアメリカがあっての経済であるともいえるのです。ですから中央銀行の為替政策についても一方的なカナダドル高については産業界から強い圧力がかかるのです。ざっくり言ってしまえばカナダドルはアメリカドルよりも価値的に劣位である必要があるのかもしれません。

ところがオーストラリアの場合、南太平洋の大陸であるもののその周りにある国はニュージーランドぐらいであとはアジア諸国になってしまいます。つまり、オーストラリアそのものが非常に独立した国家背景を持っているともいえるのです。これは「弱い」より「強い」を好むことになりやすく、為替政策についてもオーストラリアドルを安くさせようという政策的は動きはあまり聞こえてきません。

トヨタ自動車はまさにこの為替政策、そして自国通貨が強いことが呼び込む人件費高により製造業の基本である良いものをより安く作るという基本にはまらなくなったということかもしれません。

ではスイス。この国も異様な物価高で日本人はその水準に合わせるのが大変かもしれません。確か大学の初任給は60万円ぐらいだった記憶があります。私も以前、チューリッヒに出張で2週間程滞在しましたが、ホテル代があまりにも高いので途中から安宿に鞍替えしたことがあります。ただ、スイス人にしてみれば物価も高いけれど給与も高いのでスイス国内だけで見ればやっていけるのかもしれません。

そのスイスの国民投票のきっかけとなった外国人労働者がスイス国民の労働を奪うという理由はまさにここから来るのでしょう。ヨーロッパの近隣諸国に比べても突出している人件費は外国人労働者の賃金が大バーゲンに見えるはずです。結果として物価は高いが賃金に下方圧力がかかる状態になっているということだと思います。だから外国人労働者を減らすべきだ、と。

経済学的にはスイスのこの決定は「否」のはずです。そしてこのスイスの決定は実は日本の労働市場を外国人に一定数開放するかどうかについて経済学的に正しいかどうかの考察をするにも面白い材料となるはずです。たしか、日本政府はひっ迫する建設業などへの人材について一部外国人労働者を認める検討をしてます。スイスは日本に先立ち、非常に面白い題材を提供したというわけです。

オーストラリア、スイスという二つの成熟した国家における労賃の国際水準からのかけ離れた高さは国内産業に一定の制約がかかることを物語っています。スイスには確かに時計などの精密機器の産業は非常に優れたものがあり、その職人技のきらりと光る腕時計に100万円の値が簡単につくのは日本の製造業が空洞化する中である意味、日本の生きる道のヒントを与えてくれている気がします。日本は少なくとも両国を比べればスイス型に非常に近いでしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年2月11日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。

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