中国人富裕移民の制限へ動き始めたカナダ --- 岡本 裕明

アゴラ

カナダ政府は一昨日、投資移民プログラムを中止すると発表しました。投資移民プログラムとは80万ドル(=約7500万円)を所定の案件に5年間投資すれば(預ければ)あなたに移民権を差し上げます、という内容でした。実はこの移民プログラムについてはだいぶ前からその申請受付を中止し、政府内でその扱いについて慎重に検討していたのですが、ついに中止という判断に至りました。


この投資移民プログラムはほとんどの人には関係ありません。カナダ人も知らない人が多いし、多くのカナダへの移民を考えている人にも無縁でしょう。なぜなら、カナダには移民を取る選択肢は多く、自分に能力があれば移民権を取得するハードルはあまり高くないのです。

ではなぜこの移民プログラムが細々とながらも生きえたか、といえば中国人のためにありました。

この移民プログラムのトリックとは上述のように80万ドルで移民を取得します。数年間、移民ステータスの状態でカナダで形式上、仕事をし、国籍取得申請を行います。国籍取得の要件は移民権に比べれば基本さえ押さえていればぐっと楽ですので移民してからさほど遠くないうちに国籍が取れるのです。これが中国人にとっては実に意味あることでした。

理由は資産の分散であります。

中国の富裕層は主に事業家と共産党員だと思いますが、双方とも共通して思っていることは蓄えた中国内の資産をどこかに早く分散したいということであります。これと同じことが1997年の香港返還前に香港からのカナダへの移民が急増し、不動産ブームを引き起こしました。当時、カナダに限らず、オーストラリア、イギリスなど移民できるところなら何でもよかったと言ってもよいでしょう。

なぜ中国人が資産分散をしたいかといえばだれも政府のことなど信じていないということであります。将来は自分で守るということが染みついています。文化大革命がそのよい例であります。私の中国人の友人もはっきりとそれは言い切っています。

資産分散をするには国籍が取りやすく、相続税がないカナダは魅力的でした。同様のプログラムはイギリスにもオーストラリアにもありますが、イギリスは1億7000万円、オーストラリアに至っては4億7000万円ぐらいするのです。オーストラリアの高額なプログラムの申請者の9割はそれでも中国人なのです。事実カナダの投資移民プログラムの申請者も大半は中国人だったはずです。これにカナダ人が噛みつきました。このプログラムに意味はあるのか、と(安すぎた、という意見もあるようですが)。

私の住んでいるコンドミニアムにそれらしき中国人がいます。もう8年近く、エレベーターであっても近所で会っても英語は一切しゃべることができず、家でプラプラしているのです。でも、持つものは持っているのでしょう。カナダ人は移民の受け入れにとても寛容ですが、それには移民がカナダ経済に貢献するという期待があるのです。

私が移民申請した際、雇用主である会社が提出したサポートレターは3ページぐらいの長さがありましたが、その最後に「この人がカナダに移民すればカナダ経済にこれだけの貢献ができる」という大風呂敷を広げた内容が具体的に記載されています。雇用、経済効果、そして給与を通じた納税などですね。移民弁護士は「これが一番重要なんだよ」と言ったのを覚えています。

今、中国人にとってカナダの投資移民プログラムが中断することは極めてショッキングであるはずです。理由は理財商品などの不良債権化が目立ち始め、中国の個人資産がぐずついてきた中、資産分散、資産逃避の重要ルートが消されたということです。

もちろん、これはカナダのローカル経済にも打撃となるはずです。バンクーバーの高額不動産の売れ行きは減少するだろうとも言われています。しかし、カナダ政府としては極めて妥当で賢明な判断をしたと思っています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年2月14日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。