経営者には「独裁力」が必要だ - 『独裁力』

池田 信夫
独裁力 ビジネスパーソンのための権力学入門 (ディスカヴァー・レボリューションズ)
木谷哲夫
ディスカヴァー・トゥエンティワン
★★★☆☆



日本企業が業績不振の中で、ユニクロやソフトバンクのような「独裁型」企業が強い。それはなぜか、というのは大事な問題だが、本書はビジネス書にありがちな生存バイアスで、話としてはおもしろいが一般化できない。

「中心の空洞化した日本企業」とか「トップに決める権限がない」などの話はよくある批判で、なぜそうなるかというメカニズムの説明がない。おもしろいのは孫引きしている『独裁者のためのハンドブック』という政治学の分析だ。

  1. 少数のコア支持層をつくり、信賞必罰でメンバーを入れ替える。

  2. コア層の外側にはなるべく幅広い支持層をつくって動員力を確保する。
  3. 人事は100%掌握するが、いたずらに権力を誇示しない。

独裁者は意外に戦争に弱い。第3次中東戦争で、アラブの1/5の兵力しかなかったイスラエルが勝ったのは、国内が結束して戦争を支持したからだという。独裁者がふだん強いようにみえるのは、部下が権力を恐れて迎合しているだけで、対外的な戦争に勝てるとは限らない。ビジネスでも、独裁が成功するには社内で目的意識を共有することが大事だ。

しかし空洞化した日本企業をどうやって独裁型に変えるのかという具体策が乏しい。なぜ独裁的な企業が強いのかという理論的な分析もない。経済学でも独裁についての理論は昔からあるが、著者はそういう成果も知らないようだ。「空洞化した組織」がなぜ生まれたかという問題は、彼が(ろくに読まないで)批判する丸山眞男が詳細に分析している。

ただ日本の経営者に「独裁力」が必要だという著者の主張には賛成だ。いかにもマッキンゼーのプレゼンにありがちなおもしろエピソード集で、学問的な中身は何もないが、パラパラに組んであって2時間もあれば読めるので、タブレットで読むにはいい。