日本の国債の海外での価値

森本 紀行

もしも、日本国財務省がドル建ての国債を発行するとしたら、その利回りは、米国財務省証券との関係で、どのようになるか。日本国債の方が低い、ほぼ同等になる、日本国債の方が少し高くなる、かなり高くなる、さて、どうだろうか。


大方の予想は、どの程度かはともかく、日本国債の方が米国債よりも金利が高くなる、というものであろう。なにしろ、日本国政府は、世界最大の債務者であり、世界に冠たる借金王なのだから。

あるいは、ロンドンの起債市場で、外国人投資家向けの円建て国債を発行したら、同じ条件の国内発行の国債と比べて、金利はどうなるか。理屈上、先ほどのドル建て国債を通貨スワップで円転換したものに裁定されることもあり、やはり、国内発行よりも金利が高くなるのではないか。

何よりも、当の財務省に聞いてみたい。日本の外貨準備や国際収支からみて、海外での国債の発行の必要性はないのだが、もしも海外で国債を発行するとしたら、国内と同一条件になるのか。グローバルな資本市場のなかで、国内金利の秩序を海外でも通用させることに、財務省は、自信があるのか。

実のところ、日本国債の一つの問題は、このグローバル化した資本市場のなかで、少しもグローバルではないことである。国債等の政府債務の圧倒的大部分は、日本国内で保有されているからである。

一方で、日本国政府が世界最大の債務者であるという事実は、それだけ、日本国債の規模的な存在感が大きいことを意味する。先進経済圏に属する国の国債の総額のなかで、日本国債は、世界全体の約三割を占める巨大な存在である。もしも、全世界の投資家が、市場連動を意識した債券運用をするならば、日本国債は、もっともっと、外国の投資家によって保有されてしかるべきである。しかし、事実は違う。

日本株式市場は、世界株式市場の一割弱の比重だが、多くの世界の運用会社は、それに準じた配分を日本へ振り向けている。外国の投資家は、日本の株式市場で、支配的な役割を演じている。しかし、日本の国債の場合は、全く事情が違う。

債券は借金であり、本来、借金は少ないほうがいい。市場のなかで大きな構成比を占めるということは、借金が多いということだから、少しも望ましいことではない。過大な債務を負う発行体の債券には、誰も投資したくない。だから、世界国債のなかで、日本国債が大きな比重を占めようとも、外国の投資家は、日本国債を買ってこないのだ。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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