「公債の中立命題」と「代表なくして課税なし」~世代間格差が問題の本質

小黒 一正

「真実にとって欺瞞は、嘘よりたちの悪い敵である」(by Harry G.Frankfurt)という言葉がある。本日(2014年11月27日)、ダイヤモンド・オンラインに高橋洋一氏の奇妙なコラムの掲載があった。

このコラムでは、「公債の中立命題」を取り上げている。これは「政府支出の財源調達手段として、租税か公債発行かという選択は等価であり、その選択の変更は実態経済には何も影響を与えない」とする命題で、「リカード=バローの中立命題」とも呼ばれる。


この命題が成立するには、いくつかの前提条件が必要である。例えば、①政府支出の経路が一定で、②流動性制約がなく、③ 家計が将来の増税を認識している、等の条件である。

このうち、①の「政府支出の経路が一定」という条件は重要で、上記下線の「租税か公債発行かという選択は等価」の「公債発行」は「政府支出の拡大」でなく、実質的には「減税」を意味する。なぜなら、公債の中立命題は、「政府支出の経路が変化する場合について述べている訳ではない」からである(もし、数学が得意で命題の詳細に関心がある読者は、麻生良文著『公共経済学』(有斐閣)等を参照するとよい)。

にもかかわらず、上記コラムの2ページには以下の記載がある。


実は財務省官僚は、「リカードの中立命題」といわれる考え方を都合良く使うのだ。例えば、財務省が国債発行で景気刺激を求められる場合、国債発行は将来の増税につながり消費を減少させるはずで、景気刺激効果はなくなるから、景気刺激は意味がないという具合に使うのだ。

もしこの内容が、「政府支出の拡大を公債発行で賄って景気刺激を行う」ことを意味するなら、公債の中立命題の説明としては間違いである(注:高橋洋一氏の間違い)。

また、公債の中立命題が成立しないケースとしては、数年前の連載コラムでも説明したように、「世代交代」が重要である。将来の増税までの期間に、世代の入れ替わりがあると、そのツケは将来世代に押し付けられる可能性が高いからだ。これが孫は祖父母よりも1億円も損をするという「世代間格差」の本質である(詳細は近刊『財政危機の深層―増税・年金・赤字国債を問う』(NHK出版新書)等を参照)。

プレゼン資料

なお、安倍首相は2014年11月18日夜の会見で、アメリカ独立戦争の象徴となったスローガン「代表なくして課税なし」を引き合いに、消費増税の一年半延期の是非を国民に問うために衆議院を解散し総選挙を行う宣言をし、12月14日に投開票が行われる予定だ。

マスコミの報道では、「代表なくして課税なし」という意味は、「税制は国民生活に密接に関わっているもので、国民生活に大きな影響を与える税制において、重大な決断をした以上、国民の声を聞く必要がある」旨のイメージで広がっているが、これは間違いだ。

なぜなら、イギリスの植民地であったアメリカは、イギリス議会に代表を送ることはできず、一方的に税金だけが課税されていたためで、本来の意味は「増税するならばイギリス議会に植民地の代表者を参加させるべき」が正しいからだ。

そして、この文脈でいうなら、いま日本で代表者を議会に送り込むことができずに過重な負担を押し付けられているのは、選挙権のない将来世代(20歳未満も含む)である。

よって、政府債務が累増するいま、選挙権をもつ現存世代と選挙権をもたい将来世代(20歳未満も含む)との関係では、「代表なくして課税なし」というスローガンは、「増税先送りで政府債務を拡大し、将来に負担増を先送りするならば、将来の納税者の代表を国会に出せ!」が正しい解釈になる。

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)