「おもてなし」の錯覚 『新・観光立国論』

デービッド・アトキンソン 新・観光立国論
デービッド アトキンソン
東洋経済新報社
★★★★☆



昨年、日本に来た外国人観光客は1300万人を超え、2011年の2倍になった。この最大の原因は円安で、秋葉原の電気街では9割の客が外国人(特に中国人)だという。しかし2013年の人口当たり観光客数でみると、世界第1位のフランスが128%(人口の1.28倍)なのに比べて、日本はわずか8%だ。

来訪客数でも、中国(5600万人)は当然として、タイ、マレーシア、香港、マカオ、韓国のような小国にも及ばない。逆にいうと、主要国平均の26%まで観光客を増やすだけでも、今の3倍以上の観光収入が可能だ。今はGDPの0.4%しかない観光収入を1.8%まで増やすことができるのだ。

客観的にみて、日本にそういう魅力はあるか。著者は元ゴールドマンのアナリストで、今は京都で文化財の修復事業を経営しているが、在日25年の経験からみて、豊かな自然や美しい文化財など、世界平均よりはるかに高いポテンシャルがあるという。

それほど魅力のある日本の観光がだめな原因は、日本人が自国の魅力を勘違いしていることだという。観光といえばよく出てくるのが、滝川クリステルの「お・も・て・な・し」だが、あのしぐさは外国人には不愉快(言葉を区切るのは相手をバカにするとき)で、日本人が見ても不自然だ。ホスピタリティは日本の特長ではなく、観光大国フランスは無愛想なことで有名だ。

大事なのは日本人の自己満足ではなく、外国人の目から見た日本の魅力を世界にアピールすることだ。日本人は礼儀正しいとか時間に正確だとかいう話は、観光客を呼び寄せる魅力にはならない。それより海外の旅行ライターを大量に招いて日本の魅力をウェブサイトで紹介してもらうなど、戦略的なマーケティングが必要だという。

日本の労働人口はこれから減ってゆくが、これを移民で埋めるのは無理だ。日本は文化的障壁が大きく、社会保障が破綻しているので、これ以上は移民を増やせない。観光客のような「短期移民」は、消費するだけなので負担にならない。これから「L型産業」で生きていく日本にとって、本書にはいろんなヒントがある。