苦境ロシアの行方

中国の話題に目を奪われてロシアの話題は目立たなくなってしまいました。メドベージェフ首相が北方領土に二度目の訪問をした際にも「厳重なる抗議をした」というごくありきたりの記事で終わっています。今だ、安倍首相はプーチン大統領との会談、そして、北方領土問題を含む平和条約締結に向けての議論のチャンスを探っていますが、そのタイミングは微妙な舵取りを求められそうです。

挙句の果てにロゴジン副首相の「ハラキリしておとなしくしていろ」に対して菅官房長官が「コメントする気もない」と大人の態度を取っていますが、こんなのは明白な態度を示さないとダメでしょう。大使の一時引き上げぐらいの強気な姿勢を見せないといけません。

ロシアの経済状況は悪化の一途でGDPは第2四半期がマイナス4.6%で2四半期連続のマイナスですので景気後退期に入っています。資源の需要減、価格の下落が続いていることから第3四半期も全く期待できず、苦しい経済運営が続きます。そんな中、ロシア産原油だけは増産に次ぐ増産で現在1日当たり1000万バーレルを超え、ロシア時代になってからは最高水準、また、アメリカの産出量も凌ぎ、世界1位となっています。

原油価格が下がってもルーブルも下がっているので吸収できる余地があるのと今や原油を売らないと同国の経済が支えられないということでもあるのでしょう。

そのロシア、欧米からの経済制裁で自由度が効かない中、経済の西方政策、東方政策がうまく進んでいません。

まず、西側ですが、これはガスパイプライン敷設問題であります。現在、全てのガスパイプラインはドイツに繋がっています。経由地はウクライナなどいろいろありますが、全てのガスはドイツに通じる、という点はあまり指摘されていない点です。それほどドイツとロシアの関係は緊密であるともいえます。

逆にそれゆえに発生したのがウクライナの問題であります。ロシアは以前よりドイツの影響を軽微にするべく、サウスストリームという黒海からブルガリア経由で南欧に供給するガスパイプラインを計画していました。ところがこれはコストや欧州との調整問題で昨年末頓挫。代わりにトルコ経由でトルコルートの開拓をしているのですが、これもなかなか進みません。

では東側政策。中国との長期的なガス供給契約を結んだものの工事が進みません。そして常に政治に踊らされるのがガスプロムというロシアの世界最大のガス会社。メドベージェフ首相も元々はガスプロムの取締役会議長であったことからも推測できるようにロシア政府とは一心同体の会社であります。そのメドベージェフ首相はクリミアから択捉へと飛びまわり国内経済問題の立て直しに躍起になっています。

プーチン大統領としては現在の経済情勢、世界情勢から下手な動きはしない方がよいと考えている節があり、動向が読みにくい状態にあります。

読み方の一つとして中国とロシアの関係は安定、且つ、成長的なものになるのかどうか、であります。両国間関係の歴史を紐解くと決して蜜月ではなく、むしろ厳しい関係を経てきたという印象があります。特に1960年から80年にかけては最悪とされ、69年にはダマンスキー島の武力衝突も起きています。

中国は58-60年に大躍進政策ををとり、その後の文化大革命に続くいわゆる毛沢東時代でありました。今の習近平国家主席が毛沢東政策に似ている部分があるとされるならばロシアとしてはやりにくさはあるはずでプーチン大統領は習国家主席に胸襟を開いているとは思えません。つまり、両国間はひょんなことでその関係が右にも左にも変わる可能性を示しています。

特に中華思想とロシア帝国主義思想が合致するはずはなく、ロシアは東方政策に於いては「敵の敵は味方」の発想から日本を無視できない筈なのです。が、いまのロシアは外交的に敵だらけであまりにも形勢不利、だからこそ、今、ロシア国内の体制固めを行い、仮に世界で不和が起きたらそれに乗じるというチャンスを狙っているように見えます。

安倍首相が狙うプーチン大統領との会談は今急いでやっても実が少ないでしょう。但し、ウクライナ問題が勃発するまであれだけ両者は会談を重ね、関係を作り上げているだけに社交としてつきあうぐらいの肩の力を抜いたものにした方がよいと思います。プーチン大統領とのつなぎ役は今までエリツィンとの関係からロシア外交のリーダーである森元首相がやってきたのですが、森さんから安倍さんに「世代交代」でバトンタッチしながらも政治家同士の関係強化はプラスだと思います。

北方領土問題議論は今ではない気がします。ロシアが本当に日本に助けを求めなくてはいけない時がいつかは来るでしょう。その時まで待つべきです。但し、残念ながら地球が逆立ちしても4島返還はまずなく、あっても2島までです。勿論、日本は主張し続けるべきですが。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 8月26日付より