世の中の一歩先を行ったらあかん

2015年09月07日 19:18

名門ホテル「ホテルオークラ東京」は先月末、53年の歴史に一旦幕を下ろし今月より建て替え工事に入りました。日本を代表する此の「ホテルを立ち上げた野田岩次郎さんの片腕として活躍し、社長、会長を務められた」青木寅雄さんは、「世の中の一歩先を行ったらあかん、半歩先を行きなはれ」という言葉を大事にされていたようです。


拙著『逆境を生き抜く名経営者、先哲の箴言』(朝日新聞出版)の中で取り上げた創業経営者の一人、阪急グループ創始者の小林一三さんは「百歩先を見たら狂人と言われる。しかし足元だけ見ていたら、置いてきぼりを食らってしまう。したがって、十歩先ぐらいを見るのが一番いい」と、青木さんに似たような言葉を残されています。

之は小林さんが「先見性」につき語った言葉ですが、私は此の「十歩先」とは10年位を指されているのだと思います。余りに先を見過ぎたならば狂人扱いされないまでも、誰も相手にしてくれない・誰も分かってくれないといった状況になりがちでしょう。そして何時の間にやら、その人の支援者が誰もいなくなるというようなことになるかもしれません。

先見性と事業との関係は、何時の時代も難しいものです。遠く将来を見通すは大事なことですが、遥か先の未来を見通しても現在の事業には役立ちません。例えば100年先の技術や社会の行方に関して様々な予測は為されても、それは飽く迄も予測の域を出でず現在の事業をそこから組み立てることは不可能です。

その一方で目の前の仕事しか見ていなかったらば、変化にも対応できず発展することは出来ません。つまり事業では近未来を適切に予測し、その変化に合わせて事業を展開して行くことが重要だということです。

結局どんな商売もタイミングが大事であって、如何に有用な技術やアイディアを有していても、そのタイミングを間違えてしまえば上手く行かないのです。そればかりか往々にして、失敗してしまうことすらあります。

いつ立案し、事業化し、世に投入するか――そのタイミングの見極めこそが、経営者の目に掛かっているのです。それは世のニーズや進歩等々、あらゆる面に気を配った上で行われねばならず、その勘所を持つには日頃より、長期的・中期的・短期的な視点を有しておくしかありません。

こういったタイミングを計る時、大変重要な示唆を与えてくれるのが、『易経』にある「幾」についての教えです。中国古典の「四書五経」の一つ『易経』とは、物事が変化する前に、その変化すなわち「幾」を察する能力を養うための書物であります。物事が動き変化する前には、必ず「機微」が現れます。此の機微を察知するに、易学により洞察力と直感力を身に付けて行くことが一番だと思います。

易経』を勉強したらば、三つの「キ」を学び得ます。先ずは上記した幾何学の「幾」は、兆しや機微という意味です。二つ目の「キ」は機会の「機」で、之は勘所・ツボのことです。そして三つ目の「キ」は「期」であって、物事が熟して満ちることを意味し、言わばそのタイミングが大事だということです。此の三つの「キ」を知ることが指導者には重要であって、古来この『易経』が君子の帝王学と言われてきた所以もここにあります。

孟子の言葉「天の時は地の利に如かず地の利は人の和に如かず」というのは、所謂「成功の三要素」と言われるものの原点です。その内の一つ「天の時」とは、正にタイミングのことであります。

“Timing is everything.”と言われますが、商取引でも選挙でも株式投資でも何でも全て同じです。いつ如何なる局面を選択し、何をどのようにアクションに落として行くかを考えねばならないのです。時局を洞察し、時局に合わせて打って出ることが、大事だということです。

BLOG:北尾吉孝日記
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