TPP合意に韓国メディアが危機感を募らせている

大西 宏

TPPがようやく大筋での合意に至り、あとは域内GDPの85%以上を占める6カ国以上が合意すれば、発効できることになりました。この合意を受け、貿易に限定したFTPでは先行していたにもかかわらず、日本にも市場を開放しなければならないことを嫌った韓国は、結果としてTPPに乗り遅れてしまったわけです。冷静に国益を考えるのではなく、反日感情、日本への過度な対抗心に影響された結果は韓国にどう影響してくるのでしょうか。それはもし日本がTPPを締結しなかったらどうなるのか、またTPPでどんなチャンスが来るのかを考えるいいヒントになるようにも思います。
TPP、「6カ国・GDP85%」以上で発効可能に  :日本経済新聞


TPPが成立すると韓国にとっては、これまでFTA締結で関税などの優位性があった輸出産業で、その優位性が崩れるばかりか、韓国とFTAを締結していない国では、日本製品にはかけられない関税が韓国製品にはかかってくることにもなり、経済を輸出に頼る韓国としては不利な状況になりかねません。また韓国が参加しようと思っても、もうルールはすでに決まっていて、一方的に受け入れるしかないのです。
「FTAで経済領土を拡大する韓国を羨望(せんぼう)の眼差しで見ていた日本としては、TPPが韓国を一気に追い越す『神の一手』になりそうだ」安徳根(アン・ドックン)ソウル大国際大学院教授
「韓国が『環太平洋経済同盟の落伍者』になりかねない」(崔炳鎰=チェ・ビョンイル=梨花女子大教授)
こういった懸念の声があがってくるのも当然でしょう。
韓国抜きの「スーパー経済同盟」TPPが大筋合意Chosun Online | 朝鮮日報

中央日報もTPP合意にやはり強い警戒感を表明しています。

TPPが発効すれば韓国が国際通商で不利な状況を迎えるかもしれないからだ。ひとまず韓国はアジア・太平洋地域をはじめとする主要市場でTPPに参加した日本に劣勢になると予想される。韓米FTAの効果が半減することも考えられる。パク・チョンイル韓国貿易協会通商研究室長は「2016年から韓米FTAに基づき自動車関税が撤廃されるが、TPPの発効で自動車産業が享受できるFTA効果が消える可能性がある」と説明した。対外経済政策研究院は、韓国がTPPに参加しなければGDPは0.12%減少し、貿易収支は年間1億ドル以上悪化すると予想した。

<TPP妥結>韓国、TPP不参加なら韓米FTA効果が半減も |  中央日報

影響は目先の貿易問題だけではありません。包括的な経済協定なので、TPPによって、さまざまな分野で国際ルールが生まれてきます。それが国際的なスタンダードにもなってきます。

合意にいたったルールだけでなく、時代の変化にともなって、新しいルールも生まれてくるでしょう。今日はスタンダードをめぐって、どこが主導権をとるかの競争がますます激しくなってきていますが、韓国はそのスタンダードづくりには参加できないし、参加しても、日米がその決定の主導権を握ることは避けられないのです。それはさまざまなビジネスで後手後手を追わざるをえないということも起こってくるのでしょう。

さて、長引いたTPP交渉ですが、日本ではすでにTPP効果がではじめたように感じます。長い間国内と保護政策に閉じ込められていた農業分野で、TPPによる農業自由化への危機感から、変革にむけた積極的な動きが起こってきていることです。それまでは停滞していた農産物の輸出が、金額ベースで2013年対前年22.4%増、2014年対前年11.1%増、2015年1~7月対前年同期比で24.8%も伸び始めたのです。もう立派な成長産業です。
黒船が来て危機感を持ったときに、潜んでいた力が発揮される日本らしさかもしれませんが、政府が目指している2020年輸出額1兆円も前倒しで実現しそうな勢いです。

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輸出促進対策の概要

日本は貿易依存度が低く、内需重視、国内産業保護をめざすべきだとして、TPPに反対している中野剛志さんのような方もおられますが、そういった人達に感じるのは、経済や産業が変化するダイナミズムをイメージする力や、国内市場と言っても、今日のグローバル経済の影響力がいかに大きいかの理解の不足です。
そして、もっとも重要なのは、人口減の日本が今後どうやって豊かさを創造していくのかのビジョンがまったく感じられないことです。日本を閉ざしてしまうと、どんどん内需は縮小し、競争力を失って、たんなる小さな消費国になってしまいかねません。

TPPの詳細がどうかよりも、TPP合意から締結によって、日本の国民意識が変わっていくことのほうがはるかに効果を生みそうな予感がします。

大西宏
コア・コンセプト研究所代表取締役