北の“ヘア革命”とドッペルゲンガー --- 長谷川 良

2015年11月23日 14:30

朝鮮日報日本語電子版(21日付)で北朝鮮の最高指導者金正恩第1書記の髪型についての記事を読んで、金正恩氏の将来に暗雲が漂うのを感じた。以下、当方の直感を読者と共に分かち合うために、少し説明する。

朝鮮日報の記事によると、「北では大学生や中学・高校の生徒といった若者に対し、短いヘアスタイルを強要し厳しい取締りを行っている。労働党青年同盟が男性は2センチ以下、女性はおかっぱにするよう指示を出し、監視チームがはさみを持って見回り、長髪の若者を見つけるとその場で短く切ってしまっている」というのだ。

この記事を読めば大方の読者は笑い出するだろう。当方も笑おうとしたが、「ひょっとしたら、これは金正恩氏にとって暗殺の危険を高めるだけではないか」という思いが湧いてきた。

横と後ろを短く切り落とし、前と上だけを残すヘアスタイルは「覇気ヘア」と呼ばれるそうだが、街中、国中、若者が金正恩氏の「覇気ヘア」をして歩いている情景を思い浮かべてほしい。これは滑稽というより、恐ろしい風景だ。それだけではない。北の若者が覇気ヘアで歩く。その中には金正恩氏と似た体形の若者も必ずいるだろう。そして、その若者がある日、「自分は金正恩だ」と言い出したらどうするのか、と考えたのだ。当方は金正恩氏のそっくりさん(ドッペルゲンガー)の出現を考えているのだ。

もちろん、当方の妄想には決定的な問題点がある。金正恩氏と同じく170センチの若者はいるだろう。しかし、同時に130キロの体重の若者を探し出すのは難しい。北の食糧事情を考えれば、130キロに達するためには3食をたらふく食べるだけでは十分ではない。ケーキやチップスなど間食を取っても十分とはいえない。糖分の多いアルコール類をたくさん飲む必要がある。それでも難しいかもしれない(「金正恩氏が首脳外交できない理由」2015年9月28日参考)。

金正恩氏そっくりさんの最有力者は元々太る体質の労働党幹部の息子で、日頃からぐうたらな生活している若者だ。その若者が金正恩氏の覇気ヘアをした場合、本物の金正恩氏のドッペルゲンガーの道が開かれるのだ。

アルカイダの指導者オサマ・ビン・ラディンを暗殺した米海軍特殊部隊(Navy SEALs)が今度は北の金正恩氏の寝室を襲撃し、暗殺する計画がある、という情報が正恩氏の耳に届いたとする。金正恩氏は早速、自分とそっくりさんを寝室に送る。それと知らない米軍特殊部隊はそっくりさんの金正恩氏を暗殺した後、本国に連絡する。朗報を待っていたオバマ大統領は早速、オワイトハウスで記者会見をし、北の独裁者が死亡した、と世界に向かって発信する。

その直後だ。北の平壌中央放送が軍事施設を視察中の本物の金正恩氏の姿を放映する。笑顔で視察する金正恩氏のライブ姿を大々的に放映すれば効果的だろう。世界はオバマ大統領が30歳代の若い金正恩氏の天才的な作戦に敗北したことを知る。オバマ大統領は世界の笑い物となる一方、金正恩氏への国際社会の評価はひょっとしたら変わるかもしれない。

上記のストーリーは“金正恩氏のそっくりさん戦略”のポジテイブな側面だが、問題はネガテイブな面もあることだ。正恩氏のそっくりさんを担ぎ上げ、平壌官邸を襲撃し、本物の金正恩氏を暗殺し、そっくりさんを指導者に担ぐ官邸クーデターが発生する危険性が出てくるのだ。覇気ヘア奨励は官邸クーデターを密かに計画している人民軍幹部に絶好のチャンスを提供するだろう、という直感だ。

独裁国家では何が契機となってクーデターが起きるか予想できない。当方は北の「覇気ヘア」奨励キャンペーンのニュースを聞いた時、後者のシナリオ(暗殺誘発)が脳裏を横切ったのだ。

北の「覇気ヘア」奨励キャンペーンは要するに独裁者・金正恩氏のようになれ、という思想だ。それはヘアスタイルだけではない。思想的にも独裁者の金正恩氏のようになることが願われているわけだ。それを極限までに突きつめていくと、金正恩氏のドッペルゲンガーが誕生する。皮肉にも、そうなれば金正恩氏は自分のドッペルゲンガーに抹殺される危険性が排除できなくなるのだ。独裁者は本来、自分に似た人間を生み出してはならないのだ。これが「覇気ヘア」奨励キャンペーンが金正恩氏にとって非常に危険な試みと言わざるを得ない理由だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年11月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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