宇佐美典也が待望する「世界を次に進める」文章(下)

アゴラ編集部

言論プラットフォーム「アゴラ」は2015年の締めくくりにあたり、世界的筆記具ブランド「モンブラン」とのコラボレーションでブランドジャーナル「NO WRITING NO LIFE」をお送りします。「After2020」の日本社会を担う世代に、「書く」ことの深み、意義を問いかけます。
※この企画はモンブランの提供でお送りするスポンサード連載です。

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第1回はアゴラ執筆陣から宇佐美典也さん。元経産省官僚のブロガーでおなじみの宇佐美さんは今年、2冊目となる著書『肩書き捨てたら地獄だった ~挫折した元官僚が教える「頼れない」時代の働き方』(中公新書ラクレ)を上梓。独立後に仕事も仲間もお金もない地獄を味わったことを赤裸々に語り、週刊誌やテレビでも話題になりました。ブログを書くことで地獄を脱出。今では再生エネルギーのコンサルティング業務が軌道に乗り、社員も雇うまでにステップアップした宇佐美さん。彼にとって、ライフワークでもライスワークでもある「書く」こととは?今回は後編です(前編はこちら)。
(取材・構成はアゴラ編集部)
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メモをしない人は「危機感」が足りない


——日頃からブログや事業のアイデアを思いついたらメモしていますか
いつも考えながら歩いているのですが、気になったニュースをツイートしておいて、後から見返したり、予定表にメモを書いておいたりしています。最近はブログよりも連載が多いので、どう表現したらいいのか、考えたりしています。

——メモすることは大事なのに、おざなりにする人も多いようです
お金になるものをやっていると、メモする癖はつくと思います。まあ、僕の場合は追い詰められていますから(笑)いまは個人事業と再生エネルギーの会社をやって2年ほどになりますが、チャンスを常にうかがっていないと食いっぱぐれてしまいます。そういう生き方をしている自分からみると、メモを取らない人は危機感が足りないように見えます。

感性のある文章を書くなら検索するより寺に籠れ


——パソコン時代になる前、あるいは手書きしかない時代の人たちの凄みを感じることはありますか
情報があまりない時代だったので、「本の内容をすべて覚えている」とか「ビートルズの歌詞をすべて覚えている」とか、質の高い情報を隅から隅まで覚えていたように思います。官僚時代に出会ったノンキャリア採用の職員で、統計の仕事を何十年と担当されている方がいたんですが、ずっと統計の分類を眺めているから、自動車の部品が何で何百種類もあって、自動車ができるまでの過程をぜんぶそらんじて書けるんですよ!
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そういう人が引退したら検索する技術でカバーするんでしょうが、一つのジャンル、一つの文献を極めることは今の時代難しいですよね。百人一首を10年かけて分析するにも、いまの人は検索してしまう。でも本来は寺にでも籠っていないと出てこないような話もあるわけです。

—— 一つのことで見識を極める人は大量の検索をできる人に勝てますか
「感性」という意味では、検索だけしているだけでは書けないでしょう。一昔前の作詞家、たとえば中島みゆきさんはすごいと思います。つんく♂さんも独特な世界観。スマイレージというグループに提供した楽曲の中に夏を表現した『嗚呼、すすきの』があるんですが、夏といえば普通は海と書くところ、つんく♂さんは「飛行機に乗って札幌の“すすきの”に行きたい」という内容なんです。「確かにそういう夏の捉え方もあるな」「夏の曲でこんな歌詞を書く人がいるのか」と驚きました。

——作詞家のように言葉を“芸術化”できるかは一心不乱にインプットしているからなんでしょうね
ある意味、俳句に近いですよね。古今集にある「ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心(しづごころ)なく 花の散るらむ」なんて今の時代、誰も書けませんよ。自分もそういう昔の人の感性に憧れますが、自分はどうしてもバランスをみてしまうからできません。現代人がそういう感性を身に付けるなら寺にでも篭るしかないでしょう。

集合知だけでイノベーションは生まれない


——アゴラでは今秋から「AFTER2020」のキャッチコピーを掲げていますが、2020年代以降、書くことの意義が変容していくと思いますか
いまの時代、検索はできるし、いろんな人が書いていることをつなぎ合わせて、ひとつの文章にしようといいますか、テクノロジーとか世の中の流れで「集合知」に向かっている気がします。その流れでバランスに配慮した文章みたいなものが増えてくると、結果としてバランスに偏重してイノベーションが起きなくなり、人類に新しい価値観を与えられなくなりかねません。

集合知を超える別の、人間の本性と向き合った文章が出てくるのか疑問に思いつつも、時代の変革期には、そういう人がでてくるかもしれません。たとえば国民国家というシステムも限界を迎えているわけですが、システムができたのは1600年代。そろそろ、その次を描けるような天才による文章がでてくるかどうか、期待しています。
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——お話を聞いて連想したのが「スティーブ・ジョブズはマーケティングをしなかった」という逸話です。「凡人なら市場の声を聴く」ことは集合知といえるわけですが、ジョブズは「君たちが欲しかったのはこれでしょ」とiPhoneやiPad等の革新的な製品を提案しました
文章においても同じようなことが起きるんじゃないか。ロックやホッブズ、マルクス、あるいはヒトラーも常軌を逸しているけれど、世の中を動かす迫力があったわけです。僕はモンテスキューに感動したんですが、いつかは世界を動かす文章がでてくるのかな、とも感じています。一方、最近世界的に売れたピケティはデータの積み重ねでなんか迫るものがありません。「働いて稼ぐより資産を持つ方が富を増やせる」と言われても、そりゃそうだよなと思います。

——世界を次に動かす文章があるとすれば
まあ、僕もどちらかといえば、“集合知”派なので、そういうものを突き破る文章を待ち望んでいます。

——そういえば、デザインの世界も集合知化していますね
これは半分受け売りですが、デザインすることが誰でもできることになって、デザイン自体を人にみせられる。VRやIRのように、いろんなデザインに参加できるようになります。ペンもそうだし、カメラもそう。大きければ街のデザインにも多数の方が参加して作り上げていく活動になりつつあります。具体的にデザイン案を出すレベルだけでなく、ネットで「いいね」「悪いね」を聞くレベルくらいには広がるのではないでしょうか。こうした事象はいわば「デザインの民主化」。オリンピックのエンブレムの件で批判が集まったのも、パクリ疑惑だけでなく、密室でデザイン案を決める要素が時代に合わなくなっているからではないでしょうか。

——取材の最後に宇佐美さんに、世界的プロダクトデザイナーのマーク・ニューソン氏がデザインした「モンブランM」のボールペンを使ってもらい、あなたにとって書くこととは何か?について、綴ってもらいました
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