公示価格、さて、これからどう動く?

岡本 裕明

国交省が16年1月1日現在の公示価格を発表しました。遂に水面上に顔を出した、というニュアンスの報道も多いようです。8年ぶりとか全国平均プラス0.1%、全国商業地プラス0.9%、大阪心斎橋の一角では45.1%増という驚愕の上昇率も見せています。

さて、この回復基調、続くのでしょうか?

私は3-4年前から上昇は続くと申し上げて続けてきました。そしてその通りに展開しました。が、この上昇は根本的な与件が変わらない限りにおいて統計的にあと1年か長くても2年でピークアウトするとみています。

まず、この数年の地価上昇の特徴は商業地での上昇が目立ったということ、特に大都市圏がそれをけん引した点でしょうか?理由は3つ。一つは13年初頭からの円安政策。これで外国から見た日本の不動産がバーゲン状態となりました。二つ目は訪日外国人客の予想を上回る増加ぶり。15年には2000万人にもう少しで手が届くところまで増えました。円安もありますが、政府のビザ発給条件の緩和も大きな支援だったと思います。そして三つ目が2020年のオリンピック期待需要であります。

また、住宅については節税対策のタワーマンションブームがありましたし、低金利による住宅の買いやすさもあったと思います。セミアクティブ層の住宅の買い替えで扱いのよい集合住宅に住み替える需要もありました。

しかし、このブームも上げ一杯、という気がしています。理由は不動産を使った事業は土地を仕入れてから事業化するまで1-2年、場合によっては数年かかるという時間のギャップがあるためです。仮に今、商業用不動産を仕入れても建物が収益を生むのは2018年以降です。しかもその時期は建設会社が繁忙期を迎えているため、工期も不確か、建築費も高騰していることでしょう。つまり、事業用の土地取得には一番おいしくない時期に差し掛かっています。

では、2020年を過ぎるとどうなるか、ですが、そのピクチャーが現状ないのです。政府は国際金融経済分析会合の三回目を開催し、クルーグマン博士を招きました。3回までを振り返るとほとんどの重鎮が財政出動を指摘しています。私はこの財政出動こそ、より高齢化が進む2020年代を乗り越えるための施策であって2030年に向けた長期プランの上での財政出動をしなくてはいけないとみています。

住宅価格についてはマイナス幅が縮小しているとはいえ、今だマイナスであります。なぜ、住宅はマイナスなのか、これは非常に簡単な理由で土地に対する需要が供給を下回っているだけの話です。理由は二つ。一つは少子高齢化、もう一つはタワーマンションの作り過ぎであります。(タワマンの戸当たりの土地はタワマンの高さと反比例します。)

政府は高性能の住宅を建築させる新築住宅の高揚策を取り続けています。固定資産税も住宅取得から約5年前後は住宅部分が半額になるなど様々な新規住宅を作らせるプログラムがあります。当然ながら業者は喜んで新しい住宅を作り、20年たった木造住宅をゼロ価値にします。リノベーションの価値は固定資産税の住宅部分の価値計算に一切反映しませんから築20年の住宅に1000万円つぎ込んでも居住者の自己満足でしかありません。

これが日本の住宅政策であって結局、人口も増えないのに住宅だけ売れる、という買い替え需要という一種の仮需だけで生き延びている非常に不健全な産業構造が存在します。

商業不動産については以前にも触れましたが人口とは関係ありません。その場所を借りることでいくら儲かるかですから、店舗にしろ、事務所にしろそこに拠点を構える経済的理由があればそれでいいのです。その計算を押し上げるのが訪日外国人で様々な消費を通じて日本経済に貢献してくれています。それがひいては外国人による不動産取得にもつながるというわけです。

但し、外国人の目はシビアで身を引くのが早いのも昔から変わらずです。一つのシグナルは円相場があまりにも円高に振れれば利益確定で売却すると同時に新規取得の動きが止まる可能性があります。タイミング的にはオリンピックの盛り上がりが始まる17年後半から18年が危険かと思います。

対策ですが、商業不動産の価値を高めるには外国企業の誘致、そして外国企業がビジネスをしやすい環境整備をそれこそ政府が本気を出して進めれば現在のモメンタムを維持できるかもしれません。訪日外国人については現在3000万人の目標がありますのでそれにそってリピーターをどれだけ引き付けるか、これが重要になってくると思います。買い物天国は何時までも続きませんので文化や社会が好きになる様な仕組み、留学などを含めた長期滞在型市場の喚起が必要なのではないでしょうか?

住宅については正直、タワマンの建築規制が一番手っ取り早いと考えています。日本になぜタワーマンションが必要なのかその意味が分かりません。が、役所と業界が結託してしまっており、街づくりに於いてどういうビジョンを持っているのか理解に苦しみます。日本人は地面との触れ合いを通じて文化を育んできました。隣人や近所との付き合いもそうです。その地べたにひっ付いた伝統をもう一度考える政策を考えてみるべきでしょう。

個人的には今の状況ではこれ以上の日本向け不動産投資は控えることになるかもしれません。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 3月23日付より