金融緩和:流動性はあふれ、信用は得難い --- 石黒 一郎

2016年04月25日 06:00

日銀が金融緩和の一環として、金融機関の新規の当座預金にマイナス金利を適用していることに加えて、金融機関へのマイナス金利の貸出を開始するとの憶測の報道が流れているようです。ECBで同じような決定が3月にされていて、それを日本に適用するというものです。

意見は一般的に二つに分かれていて、

  1. 1) マイナス金利で金利利ザヤ収入に苦しむ金融機関への補助金としての金利収入を日銀が与える方法を設けることになり、金融機関にとってはプラス。結果として金融システムへの潤滑油として機能するはず。潤滑油があれば金融機関は良く動けるはず。ポジティブ。
  2. 2) マイナス金利の銀行への貸出は、インフレ率を引き上げるために企業への貸出を伸ばすという日銀の目標を達成するための道具。その点では効果がないのではないか。なぜなら、銀行が貸したいような借り入れ需要がないことへの解決にはならないから。したがってネガティブ。

というところです。私は一時的に1)の効果がないとは言いませんが、持続性はなく2)の構造的な重しが舞い戻り、再びこれ以上のさらに大きな金融緩和策を考案することを日銀は迫られると思います。

しかしこの貸出が伸びないという状態は、日本だけの固有の状況ではありません。例えば米国や英国でも同様の問題が生じています。そこから見えるのは、金融危機後に銀行というビジネスがまったく新しい目標と制約を課されたということです。安全な貸出や資産を選んで、危険な貸出や業務は行わない。それは二度と金融機関の破たんを起こさないための健全化を目標としています。具体的にはアメリカではドットフランク法という形で結実しています。

その結果、たとえばアメリカでの最大の貸出である住宅ローンと住宅価格を見てみると、住宅価格は0708年のころとほぼ同じ水準まで回復して、また住宅ローンの貸出残高も同様に10兆ドルという過去のピークの水準まで回復してきました。この点では確かに回復があったのですが、しかしこの間の住宅ローン金利は過去最低でその極めて大きな恩恵を活かしてすら、ようやく過去のレベルとトントンまでしか戻れなかったわけです。また、GDPは0708年のころからさらに20%程度高い水準まで成長しています。つまり、GDPの水準から比較しても、住宅ローンはかなり伸び悩んでいるわけです。これはあのサブプライムのような信用を無視したリスクの高い貸出がすっかり消えてしまったことによるものです。

またアメリカの企業部門を見ると、借入金と自己資本の比率が大きく変わってきたことが分かります。アメリカの主要上場企業3000社からなるラッセル3000指数をみると、総借入/自己資本比率は大きく様変わりして、それは新しい標準値に落ち着いているようです。

このように金融危機以降、QEや金利の引き下げで流動性を世界の中央銀行は大量に供給し景気は上向きましたが、それに対してローン、すなわち信用は伸び悩みました。不確実なリスクのある貸出やリスクの高い事業・資産は銀行として回避するか、より留意して選択されることを要するからです。

さて上記のチャートに日本のTOPIXに含まれる上場企業の総借入/自己資本比率を並べてみました。

日本では90年代後半からすでに一歩早く借入の水準を落としてきたようです。そして過去、歴史的低金利が続く中でも大きく変わってきませんでした。バブルの崩壊以降90年代後半には金融機関の破たんもありました。そして銀行などは自らの傷んだ資産をより健全にするために、企業側にもリスクの少ない財務体質を要求していました。

さて、これから日本はインフレ率を引き上げたい、だからそのためにあらゆる手段を動員して金融緩和を続けているというのが日本銀行のポリシーですね。それが今度発表されるかもしれない、銀行へのマイナス金利による貸出につながっていくということでしょう。

しかし借入金を減らすという流れは、日本ですでに行われてきました。またそれは日本固有のものだけではなく、アメリカでもそのトレンドがあるように、世界共通でそれは金融危機に対しての健全化という信用リスクを減らす目的で進められてきました。つまり、その流れを押す力は長期間続いてきた構造的なものです。

日本銀行はあらゆる方法で市場に資金と流動性を投下しています。同時に金融機関はより健全な財務と貸出を求められています。二つの違った方向の目標を同時に達成することは普通は困難ですが、日本がインフレに構造的に向かうためには、何らかの方法でその困難なバランスを越えて信用創造が健全に行われねばならないのだと思います。

既に過剰流動性は一部不動産に流れ始め、それは過去のあの不動産バブルを思い起こさせます。欧州のマイナス金利ではすでにその不動産での前例があります。その後何年にもわたる調整を余儀なくしてしまった痛手を今後万が一にも繰り返さないことを誓い、そして自らの任期の後の経済にも責任を強くもって政策担当者は冷静に、そして慎重かつ賢明に指揮を執ることが必要だと思います。

石黒一郎, CFA

代表

BALANSTONE

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