子どもたちの未来の医療費を使い果たす前に(上)

2016年04月27日 17:00

日本では未だに、年間5万人近くが命を落としてしまう胃がん。それは、高齢者に限ったことではありません。若くして患ってしまう若年性胃がんでも、年間およそ1,000人もの若者の命が奪われています。

そんな胃がんの99%は、胃の強酸の中でも生き続ける「ピロリ菌」が引き起こしているものなんです。

残念ながら、日本人や韓国人の胃の中に感染するピロリ菌は、高い確率で胃がんを引き起こしてしまう、悪玉のピロリ菌が殆ど。日本で胃がんでの死亡者数が未だに多いのは、欧米や世界各国とは異なるピロリ菌のはたらきが原因だったのです。

そんな悪性のピロリ菌は、遺伝や生活習慣で発生するのではなく、外から伝染するもの。

一体どのタイミングで、誰から、伝染することが多いのでしょう?

その事実について、消化器を専門とする認定医・間部克裕先生に聞きました。

すると、感染源は意外にも身近なところに……。

■胃がんは感染症。つまり、未然に防ぐことができる病気

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左:間部克裕医師  右:駒崎弘樹

駒崎:間部先生、僕この分野は全くの素人で、基礎的なところから教えてください。

ピロリ菌が胃がんを発症させてしまう……と聞きましたが、僕は「がんは遺伝によるもの」だと思っていました。細菌が感染してがんになっちゃう…っていうのは、本当なんですか?

間部:本当です。実は遺伝でなるがんって本当に一部で、日本で胃がんに関して言えばピロリ菌由来のものが99%なので、感染症なんです。

駒崎:そうなんですか。知らなかった……。

間部:医療関係者以外の方々にあまり認知されていないのは、仕方ないことです。一昔前には、がんは塩分摂取が原因だとか、家族の遺伝だとか、いろいろ言われていましたしね。

ですが、大きく変化があったのは90年代のこと。世界保健機構(WHO)によって肝がんや子宮頸がんが感染症だと判明して、その後、胃がんもピロリ菌による感染症だと認められました。

駒崎:結構最近のことなんですね。じゃあ、未だ原因がわからないがんもあるんでしょうか?

間部:はい。むしろ、がんの原因がわかっていないもが多いんです。だからこそ、逆に原因がハッキリしている胃がんで、今も命を落とす方々がいることは、残念なことです。

駒崎:確かに。感染症ということは、防げるんですもんね?

間部:そう。そのことを、もっと周知させていかなきゃいけない。

■子どもへのピロリ菌の感染源、8割が親

間部:今日僕は、子育て支援活動をされている駒崎さんに広めて欲しいことがあって、お話に来たんです。

駒崎:なんでしょう?

間部:実は胃がんの原因であるピロリ菌って、ほとんどが5歳までに感染するんですよ。そして、ピロリ菌に感染していることを知らないまま大人になり、他人に感染させてしまったり、自らが胃潰瘍や胃がんを発症してしまうんです。

駒崎:え、やばい、うちの娘5歳で、息子は3歳なんですよ。もしかして、もう既に感染しているかもしれない、ってことですか? 感染源はどこです?

間部:それが感染源は、8割が親なんですよ。

駒崎:遺伝じゃないのに、親?

間部:そうなんです。

駒崎:…親の何からうつっちゃうんですか?

間部:ピロリ菌は、人の胃にしか感染しない特殊な細菌です。

だから胃を通過したもの……たとえば、嘔吐すれば嘔吐物には入ってますし、下痢すれば下痢にも入っています。胃酸が逆流したときの唾液なんかにも、多少はピロリ菌が含まれます。

インフルエンザや肺炎みたいに空気感染するわけじゃないので、接触の少ない他人には普通は感染しません。

でも、親子は密な接触をしますよね。

駒崎:しますね。親が食べかけているものを、子どもに食べさせたり……普通にしてますよ。それが感染源に?

間部:そういう場合もあるし、たとえば親が嘔吐しちゃって、それを処理した手で知らないうちに子どものために料理すると…

駒崎:あぁ……うつってしまう。

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間部:はい。それをいちばん端的に表しているのが、お子さんが陽性だったら、殆どの場合、お母さん、あるいはお父さんも陽性なんですよ。で、その菌を調べると、大体が一致してしまうんです。親は接触が密なだけに、感染源になってしまうんですよね。

ただ、ご両親どちらかが陽性であっても、子どもの感染率は10%以下なんです。つまり、過剰な心配は不要です。が、それでも出来れば可愛い子どもに感染させたくないですよね。

駒崎:そうですね。まずは全ての子どもに、ピロリ菌に感染しているかどうか、検査してもらいたいですね。

間部:いや、実は検査すべきタイミングは、もっと前なんです。

駒崎:もっと前? どういうことでしょう?

■中学生20人のうち1人が、ピロリ菌を保有

間部:子どもをピロリ菌に感染させないために、親が妊娠・出産・子育てをする前に、親の胃の中にあるピロリ菌を除菌してあげたいわけですよ。

駒崎:なるほど。感染前に原因を断ち切ってしまう、と。

間部:はい。そうじゃないと、一度感染させてしまってからは、除菌するのも大変ですから。

駒崎:じゃあ、妊婦さんとその旦那さんに、検査をしてもらう?

間部:いや、妊娠中・授乳期は除菌したくても、抗生物質が飲めないですよね。

駒崎:確かに……。

間部:これまでに「ハタチの検査」や「婚姻届と同時に検査」など、色んな取り組みをしてきましたが、妊娠するタイミングなんて人それぞれじゃないですか。

そこで、高校生を対象にしたかったけど、義務教育じゃなくなって高校に行かない子もいますし、私立も増えるから、一斉に検査するのは難しい。法的には16歳から子どもを産めますしね。

駒崎:じゃあ、義務教育の中学生?

間部:そうなんです。小学校低学年だとまだ幼すぎて再感染のリスクがあるし、小学生では検査や治療を大人と同様に行うことが出来ないので中学生に検査するのがベストだと考えています。50歳から除菌をしてもご自身の胃がん予防効果はありますが、子ども達への感染を防ぐことは出来ません。

駒崎:なるほど。じゃあ、親になる前の、一番若いタイミングでの除菌が必要なんですね。

間部:はい。本当は全国の中学生への検査を義務付けたい。でも小児科医と内科医の領域を跨いでしまう年齢でもあり、なかなか実施に踏み切れていない地域もあります……。

駒崎:先生は、既に実施を進められているんですよね?

間部:はい。僕の拠点でもある北海道では、今年度は道内の全生徒の約23%にピロリ菌の検査をしてもらえるほど普及してきました。

駒崎:すごい。その北海道中の23%の中学生に検査した結果、どのくらいの子たちが感染していたんでしょうか?

間部:23%というのは今年検査する数なのでまだ結果はわからないのですが、今までのデータだと、100人の生徒に検査するとだいたい5人くらい、5%がピロリ菌を保有していますね。つまり、20人にひとりくらいの確立です。

駒崎:結構な人数ですね。その5人の生徒が、将来胃がんになるんですか?

間部:あくまでも胃がんになる危険性がある…ということです。当然発症しない場合もありますからね。ただ、平均寿命も延びているので長生きすればするほど、胃がんになるリスクは高まります。

駒崎:なるほど。でも、早期発見することで胃がんになる可能性を防げるということですよね。それを北海道だけでやっているのは勿体無いですよ。

間部:北海道の他にも、佐賀県全体の中学3年生が実施対象になっていたり、京都府は高校生全員。それから、兵庫県篠山市や、岡山県真庭市、大阪府高槻市……大分は別府や大分市なども検査をしていますね。他にも、様々な地域で検査が普及している最中なんです。

駒崎:そうなんですね。ただ、そんな地域規模ではなく、はやく日本全国でやっていくべきですよね。

間部:そうですね。もっともっとこの活動を広げたいと思っています。

駒崎:日本では年間5万人もの方々が、胃がんで命を落としているんですもんね……。

間部:はい。救えるべき命があるんですよ。そしてもう1つ、現実的な社会問題もありまして…

駒崎:なんでしょう?

>>(下)「胃がん治療の抗がん剤で、莫大な医療費が使われている」続きはこちら。

 

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駒崎 弘樹
認定NPO法人フローレンス代表理事

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