英国のEU離脱問題(ブレグジット)とは何か

久保田 博幸

英国でのEU離脱か残留かを問う国民投票を控え市場が揺れに揺れている。このEU離脱問題はブレグジット(Brexit)と呼ばれる。BrexitとはBritain(英国)とExit(退出する)を組み合わせた造語であるが、元はグレグジット(Grexit)と呼ばれたギリシャのユーロ圏離脱を意味する造語にあるのではなかろうか。こちらもGreece(ギリシャ)とExit(退出する)を組み合わせた造語であった。

英国は1973年にヒース政権下でEEC加盟を決定したものの、1975年にEECからの離脱をめぐって国民投票を実施しており、この際にはEEC側が妥協案を提示したこともあり残留が決まった。1992年にジョージ・ソロスがイングランド銀行相手にポンド売りを仕掛け、結局、イングランド銀行は買い支えることができず、英国はERM(欧州為替相場メカニズム)を脱退した。このため2008年にリスボン条約を批准したことで英国は欧州連合(EU)には加盟しているが、ユーロ圏には属していない。

今回はこの欧州連合(EU)からの離脱を巡っての国民投票が実施される。なぜ離脱を望む声が出ているのかといえば、国家統一を目指すような欧州連合(EU)に縛られたくないことや、EU法による過度な規制が中小企業の経営を圧迫しているとの議論があり、EU法上は難民受け入れを拒否できないなどとの理由が挙げられている。

これに対して残留派はシティというグローバルな金融市場を抱えていることでのEUに属する利点があり、離脱すると安全保障上の脅威が及びかねず、他のEU加盟国との関係が悪化する懸念を指摘している。また、中長期的に英国経済にはマイナスとなる懸念なども強調している。

この英国のEU離脱問題に対しては、5月の伊勢志摩サミットの首脳宣言でも「成長に向けたさらなる深刻なリスク」と明記されているなどとして懸念されていた。しかし、市場ではリスク要因ではあるが、EU離脱は避けられるであろうとの楽観的な見方が支配していた。ところが、ここにきて英国での世論調査で離脱派が残留派を上回るといった事態が出てきたことで、金融市場は急速にリスク回避姿勢を強めることになったのである。

英国のEU離脱がすぐに世界経済に何かしらの影響を与えるものではないが、先行きの不透明感が増すことになる。英国の国内問題に止まらず、EUというシステムそのものが崩壊する懸念も生じよう。市場ではすでに英国の通貨であるポンドが売られ、安全資産として英国債は買い進まれ、英国の10年債利回りも過去最低を更新した。リスク回避の動きからドイツの10年債利回りが初めてマイナスとなった。

23日の国民投票の結果をみるまでは金融市場は不安定な動きをすると予想される。またもし23日の国民投票で離脱派が過半数を占めた場合には金融市場がさらに動揺する懸念もある。その前に開かれるFOMCや日銀の決定会合では金融政策は現状維持とするのではないかと予想される。市場が不安定なところに、新たら不安定要因をここで投じることは避けたいところではなかろうか。ただし、イングランド銀行がすでに臨時の資金供給を実施するなどしており、23日の国民投票の結果次第ではECBなども対応を迫られる可能性がある。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年6月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。