戦争と経済の本質とはなにか

2016年06月20日 06:00

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※画像は加谷珪一

暑い夏がやってくる。この時期になると、テレビや新聞でも戦争関連の特集が組まれるので考える機会が増えてくる。昨年は戦後70年という節目の年であり、多くの論議もあったため過去の記憶をよみがえらせた人も多いことだろう。

多くの人にとって戦争というものは現実的な話ではない。ニュースで見聞きすることはあっても、身近な問題として戦争をイメージできる人は少ないと思う。日々の生活と戦争はまったく関係ないものだと考えている人がほとんどだろう。しかしこうした考え方は改める必要があるかも知れない。

「教養」として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)は、経済評論家の加谷珪一(以下、加谷)が6月に上梓した著書である。「戦争が起こるか否かは経済力が左右する」とする論考から見えてくる「戦争の本質」について探ってみたい。

●日本は常に戦争に巻き込まれるリスクを抱えている

――実際に、中国の軍事的台頭や安保法制の成立など、日本をとりまく環境は大きく変化している。しかし、朝鮮半島や中国をめぐる経済的な対立はいまにはじまったことではない。昔から日中韓の3国は紛争の火種を抱えていた。

加谷は日本が戦争に巻き込まれるリスクについて次のように述べている。「米国は現在でも継続的に戦争を実施しており(その是非はともかくとして)、日本はその最大の同盟国の1つです。安保法制の有無に関わらず、日本が米国の戦争に関わる可能性は常に存在していると考えたほうが自然でしょう。」

しかし私たちは戦争の当事者になることなど夢想だにしていない。これについて加谷は好ましいものではないと言及している。「日本人は、太平洋戦争以後、自らが当事者となる戦争を経験していませんから、戦争が経済にどのような影響を与えるのか、基本的な感覚を持ち合わせていません。」

――「戦争は他の手段を持ってする政治の継続」と考えるなら、経済的な対立が政治的な対立となり、軍事的な対立に発展する可能性は常に存在するのである。

●テロは経済に悪影響を与えない

――最近ではテロによる経済への影響も無視できない。テロ活動の活発化は近年の傾向ではあるが直視する必要がありそうだ。事実、全世界的にテロの発生件数が増加傾向にあるとの報告もある。

加谷はテロと経済活動の因果関係を次のように述べている。「テロが増加すると、テロ対策も強化されることになりますが、これが経済活動を妨げる可能性も無視できません。では、テロの発生は、グローバルな経済活動にどれほどのマイナスを与えるのでしょうか。メリーランド大学の調査結果をもとに分析をすると意外な結果が得られます。学術的に厳密な分析ではありませんが、テロの発生は経済活動にはあまり影響しないのです。」

――このようなテロに対しては、強硬なスタンスで対処すべきという考え方と、柔軟に対応すべきとの2つの考え方が存在する。米国がどのようなスタンスで臨むかというところに帰結する論調が多いが、米国の外交戦略もいまは揺れている状況である。

加谷は「米国が軍事費を減らすとテロが増える」と述べている。「米国は近い将来、すべてのエネルギーを自給できる見通しが立っており、中東の石油に頼る必要がなくなっています。オバマ政権の前の時代、各国は米国の中東に対する軍事力の行使についてテロの増加につながると非難していました。ところが、いざ米国が手を引くと、テロ抑制のため、今度は米国に対して中東への強い関与を求めるという皮肉な状況となっています。」

●3Dプリンタが戦争の光景を変える

3Dプリンタは三次元設計データを元に、プラスチックや金属などで立体を製造するための装置である。加谷は3Dプリンタの誕生が従来の戦争の概念を大きく変えるとしている。「多くの人は、戦車というものは道なき道を進軍するイメージを持っています。戦車にはキャタピラーが付いていますから道路の無いところも走行できます。しかし戦車自体は精密機械の塊ですから荒れた土地の走行で一定以上の故障や損傷が発生します。」

――確かに故障率や損傷率で考えると分かりやすい。仮に100キロあたり5%の故障率、損傷率で試算すると次のようになる。100台投入して300キロを進軍すれば、15%(15台)が使いものにならなくなる。壊れた戦車は自走できないからトレーラーなどに載せて走ることになる。しかし、道路が整備されていなければ運ぶことはできない。インフラが脆弱な場所に近代的な軍隊は投入できないのである。

これについて加谷は次のように述べる。「3Dプリンタを設置するところさえあれば、そこは車両の整備工場になりますし、医療器具などを作り出す衛生拠点にもなります。しかも、戦争の主体は人から無人機やロボット兵士など機械の比重が高くなってきます。このように軍隊のオペレーションの概念は確実に変わっていきます。そのくらい、IT化がもたらす影響は大きいと考えられているのです。」

●本日のまとめ

最後に加谷のメッセージを引用し結びとしたい。「変化に対応して、新しいテクノロジーを使いこし、ビジネスや金融の分野で重要な地位を占めていくことこそが、本当の意味での安全保障であり、その延長戦上に強い軍隊が存在することになります。日本人は、本来、知恵のある民族であり、新しい時代への適応力は高いはずです。私たちの日常的な経済活動こそが、国民の安全を守るのです。」

尾藤克之
コラムニスト

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尾藤 克之
コラムニスト/経営コンサルタント

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