「アラブの祖」イシマエルって誰?

2016年07月05日 11:35

アブラハムと妻サラとの間に久しく子供がなかった。そこで女奴隷ハガルから子供を得た。その子はイシマエルと呼ばれた。その後、神はサラに心をかけ、アブラハムとの間にも子供が生まれた。その名はイサクだ。正妻と女奴隷の間にアブラハムは2人の子供を得た。イシマエルは後日、アラブ民族の先祖となる。

Wilderness
▲「ハガルと荒野のイシマエル」カレル・デュジャルダンの絵画(ウィキぺディアから)

旧約聖書はイサクとイシマエルとの関係について余り多くは記述していないが、サラはアブラハムに、「このはしためとその子を追い出してください。このはしための子はわたしの子イサクと共に、世継ぎとなるべき者でありません」(創世記21章)と述べている。正妻と女奴隷の間に葛藤があったことが推測される。

2人の女性の争いを心配するアブラハムに対し、神は「はしための子もあなたの子ですから、これをも、1つの国民とします」と約束。アブラハムから別れたハガルとその子イシマエルはべエルシバの荒野にさまよう。水が尽きた時、神は「わたしは彼(イシマエル)を大いなる国民とするであろう」と再度、約束している。その後、「神はわらべと共にいまし、わらべは成長した。彼は荒野に住んで弓を射るものとなった」という。創世記16章では、主の使いがハガルに現れ、「彼は野ロバのような人となり、その手は全ての人に逆らい、全ての人の手は彼に逆らい、彼は全ての兄弟に敵して住むでしょう」と告げている。

母親に連れられ、父親アブラハムから別れたイシマエルはどのような子供時代、青年時代を過ごしたのだろうか、分かっているのは、イシマエルはエジプトの国から妻を迎えたことだけだ。

イサクからヤコブとエサウが生まれ、ヤコブが後日、イスラエルとなる。一方、137歳まで生きたイシマエルの子らはハビラからエジプトの東、シュルまでの間に住んで、アシュルに及んだ。イシマエルは全ての兄弟の東に住んだ(創世記25章)。このようにして、イシマエルはアラブ民族の先祖となった。新約聖書「マタイによる福音書」1章にはイエスの系図が詳細に記述されている。一方、創世記25章にはイシマエルの家系が簡単に記述されている。

興味深い点は、聖書はアダムからノア、アブラハムの家庭へと話を進展していくが、神が愛する人とそうではない人に分け、話を展開していることだ。アダムには2人の息子、カインとアベルがいた(後日、アベル死後、3男セツが生まれる)。神はアベルの供え物を取り、カインの供え物を拒んだ。それ以降、次子は神の愛を受け、長子は神の愛を直ぐには受けられない立場となっていく、といった具合だ。

聖書の世界は神とサタンの善悪闘争史という観点で描かれれている。アベルは善の側に、カインはサタンの側に分かれる。そして悪側が善側に屈服することで神の願いが実現していくという筋展開だ。故レーガン米大統領は冷戦時代、共産主義を悪魔の思想と喝破したが、そのルーツは聖書的世界観に基づいていたわけだ。

愛を充分に体恤できない環境下で成長した子供(イシマエル)は愛を十分に受けてきた子供(イサク)に対し、妬み、憎しみを抱いたとしても不思議ではない。同じように、イシマエルから誕生したアラブの世界で生まれたイスラム教の教えに、潜在的な戦闘性が含まれているとしても偶然ではないだろう。
ちなみに、ムハンマドは610年、メッカ北東のヒラー山で神の啓示を受け、イスラム共同体を創設したが、メッカ時代を記述したコーランは平和的な内容が多かったが、ムハンマドが西暦622年、メッカから追われメディナに入って以来、戦闘や聖戦を呼びかける内容が増えている。

エサウはイシマエルの娘マハラテを妻に娶っている。愛されない立場にあったエサウがこれまた愛されない立場にあったイシマエルの家から妻を得たのだ。これは驚くべき記述だ。愛されなかった家系の恨みが血統を通じて更に蓄積され、増幅されていったことを物語っているからだ。
オランダ画家、レンブランド派のファブリティウスは「ハガルとイシマエルの追放」というテーマの作品を描いている。ハガルとイシマエルの物語は芸術家に多くのインスピレーションを与えているのだ。

神の愛、祝福を受けてきたアベル、そしてイサク、ヤコブに繋がる住人は、愛されなかった世界に追いやられたカイン、イシマエル、エサウの世界の住人に対し、許しと和解の手を差し伸ばさない限り、両者間の愛の闘争は終わることがないだろう。
イスラム過激派テロ組織の蛮行の背後には、長い歴史の中で蓄積されてきた恨み、憎しみが疼いているのを強く感じるのだ。これは「聖書の世界」の話ではないのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年7月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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