日経も気をもむ?EU危機は英経済紙FTに飛び火か

2016年07月08日 11:30

買収した日経紙も気をもむ

EU(欧州共同体)と英国の離脱交渉は2年はかかり、不透明感が続きます。企業にも多大な影響をもたらし、時間がかかればかかるほど、英国から離脱する金融機関などの本国離脱、外国企業の大陸への移転は増えるでしょう。特に英国が旗を振るマネー資本主義やグローバリゼーションの守護神を務めてきたフィナンシャル・タイムズ紙(FT)への影響は必至です。

FT紙といえば、昨年11月に日本経済新聞社が1600億円もの巨費を投入して、買収しました。FT紙の営業利益の60倍もの買収額です。世界からみるとローカルな日本の経済新聞社が、世界でトップクラスの名門経済紙を買収したとき、「すごい経営決断だ」、いや「高級ブランドに目がくらみ高値つかみしたことを後に後悔しよう」と、評価は分かれました。

EUがこのような事態を迎えると予想していたら、日経は踏みとどまっていたことでしょう。日経の経営者は冷や冷やして、EUとFT紙の行方へを見守っているでしょう。このことはFT紙や日経がなんとか、EU危機が極小化することを願う紙面を連日狂ったように掲載しているのをみれば分かります。

情報力の広さ、分析力の鋭さ、見識の豊かさなど、FT紙は日本の新聞とは異質のレベルの存在です。FT紙が論評すれば、その件はそれで決まりでもありました。「それがなぜ身売りにだされのか」と、不思議でした。親会社の英ピアソン(ロンドン、教育業務・出版)はFT紙ばかりでなく、これまた質の高い姉妹雑誌のエコノミスト誌もイタリアの投資会社に売ってしまいました。

ピアソンの売却作戦は成功

紙媒体が軸(電子媒体も併用)になっているジャーナリズムは、デジタル化に食われ、下り坂に向かっており、「売却するなら今」というのがピアソンの判断だったのでしょうか。それからわずか半年後、国民投票で英国のEU離脱が決まり、EUの将来、英国経済の先行きに暗雲が垂れ込みだしました。

FT紙が使命のようにしてきたマネー資本主義、グローバリズム推進への懐疑派が増せば、FT紙の提供する経済情報価値への懐疑派も増えることになります。EUの将来を見越して、金融・証券会社には、ロンドンから拠点を欧州大陸に移転する動きがあります。日本企業も脱英国の構えです。電子媒体併用といっても、読者数、広告収入の減少の影響は大きいでしょう。

「ピアソンの読みが深かった。先を行っていた」いう見方もできましょう。FT紙の紙部数は20万部、電子媒体をいれると75万部(電子の有料読者は40万人)だそうです。デジタル・コンテンツが充実し、日本の新聞とは全く異なる経営体系ですので、単純に比較できません。そうであっても、FT紙の経営にマイナスの影響がでてくることは否定できず、所有する日経の資産評価も下がるでしょう。取得資産の償却にも苦しむことでしょう。

EUあってこそのFT紙のはず

「EUは統合の拡大ではなく、解体の方向に進む」、「今回のできごとはEUの歴史的な転換点を意味する」などの指摘にしばしばお目にかかります。EUあってこそのFT紙の存在価値が薄れてくるかもしれません。EU存在感の低下、その背後にある金融資本主義とグローバリゼーションへの疑問、それらがもらたしている格差社会の矛盾は、FT紙の将来にとっていいことではありません。

FT紙は素朴に金融資本主義、グローバリズムの旗を振り、EUそのものにも依存するメディアでした。それらに対する懐疑派が増えてくると、編集の基本路線も変わるでしょう。FT紙とEUとの距離も広がり、ロンドンの金融機能が他の欧州各地に移り、ロンドンの役割そのものも米ウオール街に奪われていくのでしょう。

日経は「FT紙の編集権は独立し、介入しない」としてきました。いつまでもきれいごとで済ませられるとは思いません。FT紙の経営に不安が生じてくれば、日経の経営問題にも波及します。日経による経営への関与が始まれば、FT紙という新聞社のあり方、編集方針と無縁ではいられません。FT紙は欧州各地、米国、アジア各地に拠点があります。英国の地盤沈下を海外拠点で補うにも、多額の資金計画は必要です。

「アジアは日経、EUはFT紙の棲み分け。FT紙のデジタル路線は十分に吸収していく」という基本戦略がいつまでも無事でいられるか、心配ですね。1600億円の投資をFT紙がもたらす利益で償却していくことはできますか。FT紙の人員整理が必要になった場合、日経が負う高額の年金債務(年金の支払い)にどうやってケリをつけるのでしょうか。英国紙の新聞経営を熟知できる日経の役員が経営の中枢に派遣されているのでしょうか。厄介なことになりました。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年7月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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