北の核実験で希ガス検出は困難

長谷川 良

北朝鮮は9日、5回目の核実験を実施したが、包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)が世界各地に配置している国際監視システム(IMS)は15日現在、核爆発によって放出される放射性物質希ガスを依然検出していない。ウィーンに本部を置くCTBTOのヴェヒター広報部長が15日、当方に明らかにした。

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▼1月と9月の核実験による地震波の動向(CTBTOのHPから)

実際に核爆発が行われたかどうかは放射性物質キセノン131、133の検出有無にかかっている。地震波だけでは核爆発とは断言できないからだ。そして核実験から時間が経過すれば、希ガスの検出チャンスは少なくなるのが通常だ。北の2回目の核実験では放射性物質を検出できずに終わった。3回目の核実験では実験55日後、日本の高崎放射性核種観測所でキセノン131、キセノン133が検出されている。

3回目の核実験で放射性物質が実験55日後に検出された理由として、CTBTO広報部長は、①北朝鮮の山脈は強固な岩から成り立っているため、放射性物質が外部に流出するのに時間がかかる、②北当局が核実験用トンネルをオープンしたのでキセノンが放出された、という2つのシナリオが考えられるという。なお、4回目の実験では公式には放射性物質は検出されていない。一部の学者が独自に検出したと発表したが、「CTBTOとしては公式に認知していない」という(付け足すが、核実験が行われた日の前後の天候も希ガス検出に影響を与える。気流の流れにも左右されるからだ)。

そして今回も実験後1週間が経過したが、放射性物質は検出されていない。すなわち、北朝鮮の過去5回の核実験で放射性物質が即検出されたのは1回目だけで、2回目、4回目は検出されず、3回目は55日後にやっとキャッチされた、という結果だ。

ちなみに、韓国紙「中央日報」によると、米空軍は大気中の放射性物質を検出するため大気収集機WC-135「コンスタント・フェニックス(Constant Phoenix)」を派遣している。なお、大気サンプルを捕集する特殊航空機は日本沖縄嘉手納基地に配備されている。

一方、日本の自衛隊機も9日、北の核実験で放出される放射性物質の回収を試みているが、日本海上空では検出されていない。全国約300カ所の放射線観測装置でもまだ検出されていないという。

北朝鮮は過去2回、水爆実験を示唆したことがある。同国中央テレビは今年1月6日午後12時半、特別重大報道を通じ、「初の水素爆弾実験に成功した」と発表した。ただし、日米韓3国らは「爆発規模が小さすぎる」として水爆説を否定した経緯がある。

水爆実験の場合、実験直後、ヘリウム3が放出されるが、それをキャッチするのはかなり難しい。ちなみに、米軍は6日前後、北の核実験の上空に無人機を飛ばしてヘリウム3を検出しようとしたという情報が流れた。

核物理学者は、「核実験がイランで行われた場合、土壌や岩が固くないため放射性物質が外部に流れやすいから検出も容易だが、北のように強固な岩を掘ったトンネル内で核実験が行われた場合、放射性物質が外部に流れ出にくい」と説明、今回の場合も放射性物質の検出に時間がかかる可能性があると示唆している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年9月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。