プレッセ紙よ「事件の核心」は別だ

韓国・釜山の日本総領事館前に昨年末、同国の“民間団体”が旧日本軍の慰安婦を象徴する少女像を設置したことを受け、日本政府が「日韓両国間の合意に反する」として駐韓国の長嶺安政大使を一時帰国させる一方、日韓通貨交換(スワップ)協定の協議中断などの対抗措置を下した。

▲日本の安倍首相の真珠湾訪問を報じるプレッセ紙(2016年12月28日付)

▲日本の安倍首相の真珠湾訪問を報じるプレッセ紙(2016年12月28日付)

オーストリア代表紙プレッセは1月7日付5面の国際面で、「日韓間の新たな紛争」という見出しの短信を報じた。東京特派員の署名記事ではなく、国際通信社からの配信記事だと思うが、その記事を読んで、「これでは多くの読者は今回の日韓紛争の責任は日本側にあると受け取ってしまうだろう」と考えざるを得なくなった。

先ず、プレッセ紙の記事を紹介する。

Neuer Streit zwischen Japan und Sudkorea:

Der Streit zwischen Seoul und Tokio uber Japans Sexsklaverei wahrend des Zweiten Weltkriegs flammt wieder auf. Die rechtskonservative japanische Regierung beschloss, vorubergehend ihren Botschafter aus Sudkorea zuruckzurufen. Grund ist die Errichtung einer Statue in Sudkorea, die ein Madchen als Reprasentantin der koreanischen ” Trostfrauen” zeigt, die in japanischen Militarbordellen zwangsprostituiert wurden.

( 第2次世界大戦中の日本軍の性奴隷問題について、ソウルと東京間で再び対立の火が燃えあがった。右派保守系日本政府は自国の大使を一時帰国させることを決定した。その理由は旧日本軍に強制的に売春婦にさせられた韓国慰安婦を表示する少女像が韓国内で設置されたからだ)

記事は、旧日本軍が韓国で慰安婦を集め、性犯罪を繰り返したことを強く想起させる一方、韓国側の日韓合意内容の不履行については全く言及していない。プレッセ紙の記事では今回の日韓紛争の主従関係が全く逆転しているのだ。「性奴隷」や「強制的」という言葉が読者をミスリードしている。

日韓間の新たな対立の主因は、慰安婦問題に関する日韓両国間の合意内容を履行しない韓国側にあるのは明らかだ。
日本の岸田文雄外相と韓国の尹炳世外相は2015年12月28日、慰安婦問題で協議し、「日韓両政府は、慰安婦問題について不可逆的に解決することを確認するとともに、互いに非難することを控えることで一致した。この問題が最終的、不可逆的に解決することを確認する」と表明した。
日韓合意を受け、日本側は元慰安婦への支援のために10億円を支援したが、韓国側はソウルの日本大使館前の少女像の撤去どころか、国内に新たな少女像が設置されても民間団体がやったことだとして無視してきた経緯がある。

すなわち、プレッセ紙は日韓合意後の事実を全く無視し、画一的な日本批判の記事を掲載したわけだ。

記事が短信であり、日韓間の新たな対立を詳細に説明できないのは理解できるが、記事としては落第だ。通信社の記事とすれば、その点を補足して掲載すべきだった。

プレッセ紙はオーストリアの代表紙であり、購読者数こそクローネン新聞やクリア紙に負けるが、読者層は政界、経済界、インテリ文化人を中心とした社会上層部に属する国民が多い。それだけに、プレッセ紙の今回の記事は残念だ。

蛇足だが、駐オーストリアの日本大使館の外交官もオーストリアのメディア関係者を招いて、慰安婦問題の最新情報について積極的にブリーフィングすべきだ。第2次世界大戦の敗戦国でもあるオーストリアのメディア関係者は、同じ敗戦国の日本に対してどうしても批判的な傾向にあるからだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年1月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。