【映画評】ゴールド/金塊の行方

破産寸前の採掘会社ワショー社の経営者ケニー・ウェルスは、全財産をつぎ込んで金発掘のためにインドネシアへと足を運ぶ。協力者は、異端の地質学者マイク・アコスタただ一人。何とか資金を調達しジャングルで発掘作業を進めるが、一向に金鉱は見つからず、ケニーはマラリアで生死の境を彷徨うことに。だが、ついにマイクが過去最大と呼ばれる巨大金脈を発見する。投資銀行や、全世界の金山を牛耳ってきた黄金王までが一攫千金の夢を成し遂げたケニーを称賛し、ケニーは一躍スターとなる。そんな中、ワショー社保有の170億ドルの金塊が一夜にして消えるという衝撃的な事件が発生。「俺は何も知らない!」。ケニーの主張もむなしく、会社の株価は大暴落し、メディアや株主からの厳しい追求が続く。そしてついにFBIによる捜査が始まった…。

実際に起きた金脈偽装詐欺事件にインスパイアされたクライム・サスペンス「ゴールド/金塊の行方」。モデルとなったのは、90年代、カナダのBre-X社が起こした史上最大といわれる金鉱詐欺事件“Bre-X事件”だ。時代を80年代に、場所をアメリカに置き換えて、野心的な探鉱者が一攫千金の夢を追う姿を描く。祖父の代からの会社を継いで鉱山ビジネスに携わるケニーは、いわば夢追い人だ。あるかどうかもわからない金の鉱脈を探し続ける彼は、金(かね)ではなく金(ゴールド)に取りつかれている。

だがケニーの周囲が興味があるのは金(かね)の方だ。事業に失敗し破産寸前のケニーが金鉱を狙う話をした時は、バカにしていた大手投資銀行が、金脈を発見した途端、ハイエナのようにケニーの富に群がる。ケニーもまた、彼を献身的に支える恋人ケイの「あなたは利用されているだけ」という助言も聞かず、派手に金をばらまき、享楽的な日々を送る。これが西部開拓時代の話なら、単純な山師の武勇伝だが、時は80年代。格差社会のアメリカで、ジェットコースター並の浮き沈みの人生を生きるケニーは、NYの金融界に挑み、採掘地インドネシアの独裁政権とも渡り合うしたたかさを秘めている。

オスカー俳優のマシュー・マコノヒーが、激痩せの「ダラス・バイヤーズクラブ」とは対照的に、体重を増量し、でっぷりとした太鼓腹、落ち武者風のハゲ頭、時には全裸やパンツ一丁の姿で怪演に近い熱演を披露しているのが見所だ。男たちの友情、信頼、裏切り。世紀の詐欺事件の顛末には、驚くべきどんでん返しが用意されている。お世辞にも品があるとはいえない主人公だが、それでも彼のつきないエネルギーと野望、粘り強さには恐れ入る。ケニーのその後は…。きっと懲りずにゴールドの夢を追っているに違いない。
【70点】
(原題「GOLD」)
(アメリカ/スティーヴン・ギャガン監督/マシュー・マコノヒー、エドガー・ラミレス、ブライス・ダラス・ハワード、他)
(一攫千金度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年6月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。