北方領土の返還に共同経済活動は逆効果

2017年07月03日 06:00

首相官邸サイトより(編集部)

対ロ協力の狙いは4島からそれた

北方領土で日ロが進める共同経済活動は、「領土問題を解決するための環境つくり」との考え方が一般的です。遠回りのように見えても、そうした努力の積み重ねが必要なのだと、私も思ってきました。それがどうも違うようなのですね。両国が共同経済活動を進めれば進めるほど、ロシア、その住民にとって4島の経済水準が好転、居住にも適した地域になる。従ってロシアがますます手放さなくなるだろう、ということです。

漁業、観光、エネルギー、流通、医療などの共同経済活動を進めるための官民合同調査団が1日、現地調査を終えました。昨年末の日ロ首脳会談で実現に向けた協議の開始が合意されました。団長の首相補佐官は「大きな可能性を感じている」と強調しました。港湾、空港、エネルギー供給なども改善していく必要があるとも、言っています。

日経は「互恵的な経済協力のすそ野を広げ、領土返還の環境つくりを目指そう」、「ロシアは共同経済活動の成否を領土問題解決の試金石をみなしている」(4月の社説)です。読売は「経済協力でロシア側の対日観が向上し、領土返還への理解が広がる」(同)と、素直な受け止め方です。安倍政権もそのように強調してきました。

生活環境が好転したら島は返さない

そこで素朴な疑問です。経済活動や住民の生活に適しているとは思えない4島の経済、生活環境が好転したら、島の価値が上がり、日本に返還する意欲は後退するのではないですかね。医療サービスもよくなる、流通網も改善する、魚の養殖業で仕事が生まれる、観光業で外貨も稼げるなどとなったら、住民は喜び、島に住み続けたいと思うでしょう。逆に日本では、元住民の高齢化が進み、いずれ4島が返還されたとしても、帰島しようとする人は絶えてしまいます。

領土問題は外交的、国内政治的には、重大な意味を持ち、歴代政権は「尖閣諸島、竹島含め、あいまいな態度をとるべきではない」、「北方領土は日本の領土であり、日ソ共同宣言では、条約締結後に歯舞・色丹を引き渡すとしている」との姿勢をとってきました。第二次世界大戦でソ連が日ソ中立条約を破棄して、参戦し、日本の降伏直後に4島を占領したのです。領土問題の基本認識は私も同じです。

安倍政権は、その環境つくりの役目を共同経済活動に与えようとしてきました。その安倍政権も本心では、4島返還が実際に実現するとは今や思っていないのではないか。共同経済活動の戦略的な狙いは、領土返還ではなく、日ロ間の関係強化そのものであり、中国、北朝鮮という国の隣接地域をその舞台にするということにある。そうすれば両国へのけん制にもなる。国際情勢を考えれば、領土返還よりこちらの価値のほうが大きいでしょう。

軍事戦略からも4島は重要

さらに、ロシアは北方領土に軍事基地を建設しており、返還時に基地を移転することはありえないでしょう。4島は太平洋への出口にもあたり、軍事戦略的な価値は極めて大きく、手放すような選択はしませんね。一方、かりに4島、あるいは2島を日本に返還してくる場合は、日米安保条約の適用対象に含めないよう、ロシアは要求してくるでしょう。米政府がこれを受け入れるとは考えられません。実際問題として、返還はまず実現しないのです。

返還されても、帰島する日本人、移住する日本人はまあ、いません。それに港湾、空港、道路などの整備を日本の資金でできるほどの財政状態ではなくなっています。日本のメディアは「経済活動の具体化を図る中で、領土交渉進展の機会をうかがう」などと主張しています。本音でそんなことを考えるべきではありません。領土返還を店の看板に掲げてはいても、看板とは別の商売をやっている。それが実態になってきたと、思います。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年7月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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