“政局バカ”の政治部記者が書かない、宏池会60周年催事の意義

2017年07月05日 06:00

シンポジウムの冒頭で挨拶する宏池会の岸田文雄会長(外相)

日本の新聞・テレビの政治部は「政局部」と揶揄されるほど、政策に関心もなく、論説委員等に出世する頭脳派を除く大半の若手は、筆は速いが、ほぼ政局的な観点でしか記事を書かない。きのう(7月4日)、アゴラ執筆陣の小林史明・衆議院議員のお誘いで、自民党の名門派閥「宏池会」の60周年記念シンポジウムを傍聴に行ってきたのだが、下記に引用する毎日新聞の速報記事は、そんな“政局部”記者たちの典型的な筆致だ。

岸田氏:「忍耐と謙虚さ重要」宏池会シンポ、総裁選へ意欲 – 毎日新聞

自民党の岸田文雄外相は4日、自身が領袖(りょうしゅう)を務める派閥「宏池会」(岸田派)の60周年記念シンポジウムで、「政権を取ることを将来考えた場合、大事なのは忍耐とか謙虚さといった発想だ」と述べ、将来の党総裁選立候補に意欲を示した。安倍晋三首相の、批判に対する不寛容な姿勢や疑惑への説明不足に批判が集中するなか、対照的な姿勢を強調することで自らをアピールした。

岸田氏は会場を訪れた脳科学者の茂木健一郎さんから「政権を担う時、これだけは訴えたいことは」と問われ、「権力を謙虚に使うことこそ、政治が国民から信頼を得る上で大変重要なポイントだ」と語った。宏池会を創設した池田勇人元首相のキャッチフレーズ「寛容と忍耐」を念頭に置いた発言で、宏池会の首相候補であることを強く印象づけた。【高橋恵子】

まあ、そうなんだけどさ。たしかに茂木センセが質問をぶっこんだの対し、岸田さんがそういう大人の答えをした場面が、この日のシンポジウムで一番盛り上がったのは確かだ(苦笑)。ヤマ場であったことには違いないが、しかし、この記事などは、都議選の歴史的惨敗で「ポスト安倍」探しの機運が高まりつつある中、結局、岸田さんの発言を政局的な視点でしかとらえていない典型的な記事だ。

茂木健一郎の“トリックプレー”だけではない。行事の意義って?

各社の記事は完全にすっ飛ばしているが、シンポジウムは岸田さんと林芳正・参議院議員、渋沢栄一の子孫の投資会社社長、渋沢健さん、そして300万部の大ベストセラー「女性の品格」でおなじみの坂東真理子さんが登壇。メインキャストはこの4人の方々で2020年以降の経済・社会のあり方みたいな高尚な政策議論で進行していた。

というわけで、茂木センセの居場所はステージ上ではなく、一観客としての質問タイムの中で出たものだ。もしかしたら、世間やメディアの俗っぽい関心にお応えするために、トリックスター茂木センセを仕込ませていたのかもしれないが。

さて、宏池会がこの時期にそもそもシンポジウムをやった意義はもっと深いところにあったはずだ。そもそも「派閥がこうしたシンポジウムをやること自体が珍しい」(小林さん)。宮沢喜一元首相の後、四半世紀近く総理総裁を輩出できていない“名門派閥”としては、もちろん、60周年の節目をキックオフイベントとして、プレゼンスを高めたいという思惑が一番であろう。

宏池会が輩出した歴代首相(時計回りに池田勇人、大平正芳、宮沢喜一、鈴木善幸)

しかし、茂木センセがこの日、「自民党の良心」と褒めそやしたように、宏池会としては岸田さんを巡る政局的関心以前に“保守リベラル”としての立ち位置を明確にしておくことだったのではないか。

録音したわけではないので、ざっくりした内容で恐縮だが、岸田さんは冒頭、「60年を振り返り、感傷に浸るだけでは寂しい。未来に向けて考えていきたい」と述べた。宏池会出身の宰相は、池田勇人の「所得倍増計画」しかり、大平正芳の「田園都市構想」(今でいう地方創生と似てる)しかり、その時代を代表するキャッチーな政策を打ち出してきたわけだが、当然のことながら、世界に類を見ない超少子高齢化に立ち向かって行く今後のあるべき政策とは何か、“岸田宏池会”として、その構想を固めていかなければ、安倍政権に対する“党内オルタナティヴ”にはなり得ない。

あの“武闘派”派閥とは対極的な“癒し系”カルチャー

近々、上記4人の高尚なお話の起こし記事がどこかで出るらしいので、詳しくはそちらに任せたいが、この日のやりとりでは、「持続可能性」やら「多様性」やら「社会的包摂」やら、およそ自民党らしからぬワードがポンポン飛び交った。坂東さんの口から「LGBT」の話が出たときには「あれ?俺きょう民進党のシンポジウムに来ちゃったんだっけ?」と一瞬錯覚してしまったくらいだが(笑)、かなりの“リベラルワールド”が展開された。

まさに宏池会こそ、自民党の中の“癒し系”“文化系”集団としての面目躍如といった趣きでもあるが、いまの若い人は、自民党政権というと、小泉さんとか安倍さんとか強烈なリーダーが続いたため、“武闘派”“体育会系”的な印象が強いだろう。やはり、それは総裁派閥である清和会のカルチャーなのだと再認識する機会になった。

なお、毎日新聞政局部の高橋記者よりはまだ“政策通”と見える、日経新聞の記者は、宏池会としての経済政策構想について理解があるらしく、短信記事の中に、それっぽいことをにじませている。

岸田氏はアベノミクスの課題として「今の経済政策における格差といった負の側面に適切に対応することが重要だ」と指摘した。憲法9条改正に異論を呈したのに続き、経済政策でも首相と距離を置き始めたのではないかと受け止める議員もいた。(日本経済新聞:岸田氏「格差などへの対応が重要」派閥60年式典

さすがに岸田さんとしては、閣内不一致を、野党に突っ込まれてもなんなので、微妙にさじ加減しながらのコメントになっていたが、林さんがハーバード留学時代に学んだという「小選挙区制を採用した国は財政赤字が膨張する傾向がある」データについて言及するあたり、“外交・安保はハト派だが経済・財政はタカ派”という財政再建志向や財務省との親和性はありそうだ。

このあたり、“外交・安保はタカ派だが経済・財政は超ハト派”という安倍政権のキャラ、経産省シフトとまさに対照的だ。安倍政権に対するリベラル・オルタナティヴとしての座は、社会党がいつか歩いた社民党への道を爆走中の蓮舫民進党には全く期待できなくなってしまったので、政界マーケットでその領域はガラリと空いているが。

ただ、宏池会の亜流だったはずの麻生派が、気がつけば山東派をM&Aして、党内第3派閥(志公会)にのし上がってきた。保守本流・宏池会本流の岸田派としては、安倍政権の行方だけでなく、麻生派の不気味な膨張もにらみ合うという展開になりそうだが、いずれにせよ、石破派も含め、党内で切磋琢磨するのは国民にとって悪いことではない。党外には小池新党という都市型新勢力も台頭必至な中にあって、「ポスト安倍」に向け、宏池会がどのような政策構想を示すのか、財政タカ派の日経新聞あたりは注目するのではないか。

貴重な機会を下さった小林史明さん、ありがとうございました。

なお、議論を聞いていると、アゴラは(正式見解ではないが)外交・安保は「清和会」寄り、経済・財政は「宏池会」に近いという印象を持った。しばしばアゴラに対して「お前ら、官邸から機密費もらってるだろう?」的な誹謗中傷をしてくる左派のネット民はリテラを読み過ぎているのか、そのあたりの政策的な土地勘を全くお持ちでないようなので、もう一度、ググって勉強し直してね、と思うところです。


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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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