船舶検査:総選挙で問われるべき深刻な課題(特別寄稿)

2017年09月21日 06:01

立入検査訓練に臨む海自隊員(海自サイトより:編集部)

この期に及んでなお、政府と主要マスコミ、御用学者らが仲良く〝ダチョウの平和〟論を唱えている(当欄既出拙稿参照)。だが、彼らの予測(期待)は論拠を持たない。げんに、みな今日の危機を予測できなかった。それどころか「危機的な事態にはならない」と合唱してきた。なかには、私が「8月下旬の米韓合同軍事演習期間中に北朝鮮は弾道ミサイルを発射する」と予測した翌日、同じ番組で「金正恩委員長もバカではないし、そんなことをするはずがない」と拙論を全否定した猛者もいる。

事実はどうか。相変わらず北朝鮮情勢は拙著『安全保障は感情で動く』(文春新書)の予測どおり展開中だ。当欄でも先月「8月中にも発射はあり得る」と予言した。だが、「金正恩は賢い判断をした」、「きっと良いことが起こる」等のトランプ発言を受け、日本でも楽観論が広がった。結局、北朝鮮は8月29日に弾道ミサイルを発射。9月15日にも同じ「火星12」を、ほぼ同じ方向に向けて撃った。

日本政府の責任も重い。安倍晋三総理は8月の発射時も、9月の再発射時も「発射直後から完全に把握していた」と豪語したが、本当にそうか。

ならば、なぜ9月15日の発射に際し、政府はいったん公表した飛距離をその後200キロも伸ばしたのか。要するに、最初の発表は間違いだったということであろう。もし「発射直後から完全に把握していた」のなら、起こり得ない数字の修正ではないか。

同様に、8月29日の発射を受け、政府は「飛翔体が日本海上で三つに分離した」(官房長官)と公表、その後「三つとも太平洋上に着水した」(防衛大臣)と発表したが、その話はどうなったのか。政府は「分析中」と繰り返すだけで、いまだ納得のいく説明はない。

9月19日付各紙は「冒頭解散」を報じた。選挙中の「政治空白」が懸念されている。「保守」陣営はそうした懸念を一笑に付すが、彼らが礼賛した平和安全法制(いわゆる安保法制)は各種事態の認定に国会の事前承認を求めている。政治空白がもたらす対処の遅れは致命的なリスクを生みかねない。総理以下、国会安全保障会議のメンバーを含む閣僚らが選挙遊説で不在となることへの疑問も消えない。

野党やマスコミは「解散の大義」を問うが、ここでは以下の課題に絞ろう。一例としてNHK「日曜討論」のやりとりを紹介する。

台風の影響を受け、翌月曜の9月18日に放送された同番組で、最新国連制裁決議の当初原案にあった「公海における旗国の同意を必要としない船舶検査(臨検)が今後、米軍主導で実施される可能性」が話題となった。専門家の古川勝久(元国連スタッフ)が「公海と言っても、要は日本海。米軍から海上自衛隊に対して、臨検への参加を要請してくる可能性がある。そのとき日本は対応できるのか」と問題提起した。

すると、他の出演者(元海将)が「国連決議を根拠とした船舶検査ができるように法改正された」云々と反論、古川は怪訝な表情を浮かべながらも「問題なく臨検できるということならば・・・」と渋々自らの発言を修正する展開となった。

結論から述べよう。古川が正しい。なるほど平和安全法制で「国際平和共同対処事態における活動」も認められるようになったが、「問題なく臨検できる」ようには法改正されていない。

たとえば、根拠法の「別表(第五条関係)」は改正されなかった。ゆえに「乗船しての検査、確認」できる船舶は「軍艦等を除く」(なので、北朝鮮軍の艦船には乗船検査できない)。

しかも「当該船舶の停止を求め、船長等の承諾を得て」からしか乗船検査できない。当たり前だが、北朝鮮の船長が「承諾」するはずがない。

相手が停船の「求め」に応じない場合どうするか。法は「これに応じるよう説得を行うこと」と規定する。ならば「説得」に応じない場合どうすべきか。現行法が許すのは「説得を行うため必要な限度において、当該船舶に対し、接近、追尾、伴走及び進路前方における待機を行うこと」だけ。

要するに、海上自衛隊の艦船は、追尾や伴走をしながら粘り強く「説得」を続けるしかない。肝腎の武器使用権限は(任務遂行型ではなく)いわゆる「自己保存型」の範囲内。したがって警告射撃すら許されない。

いや、それ以前の問題として、「止まれ、止まらんと撃つぞ」といった警告すら許されない。「止まれ」との停船命令も出せない。これでは事実上、乗船検査は不可能である。実効的な船舶検査を実施するためには、停船命令を出し、従わない場合は「当該船舶の進行を停止させるため」武器を使用するほかない。

いったん、制裁対象の貨物を積んだ北朝鮮船舶の立場で考えてみよう。進行方向の右側に米軍が展開しているとしよう。左側には英軍がいる。背後は豪軍(オーストラリア)に抑えられた。正面には日本の海上自衛隊がいる。

さて、あなたが北の船長なら、どうするか。迷わず正面突破を決断するに違いない。上記海軍の中で、けっして実弾を撃ってこないのは日本の自衛隊だけだからである。自衛隊は「説得」しかしてこない。自衛隊には失礼ながら、そんなの無視すれば済む。

以上のごとく自衛隊の手足を縛った張本人は日本国憲法であり、その政府解釈である。これを改正しない限り、実効的な強制措置は望めない。このままでは「最も強い表現での抗議」を繰り返すだけの外交が続く。

安全保障は感情で動く (文春新書 1130)
潮 匡人
文藝春秋
2017-05-19
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潮 匡人
評論家、航空自衛隊OB、アゴラ研究所フェロー

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