ヤマトの経済指標連動運賃から考えたこと!

Wikipedia:編集部

宅配便最大手ヤマトホールディングスが、雇用や賃金の情勢を示す経済指標と連動させて法人向け運賃を決める仕組みを導入する方針を固めました。

ヤマト運賃、経済指標と連動へ 法人向け、新方式導入(朝日新聞デジタル)

人手不足による人件費の上昇をサービス価格に反映しやすくすることを狙った異例の価格戦略とのことです。
詳細はわかりませんが、経済指標に連動させた価格を取引先が受け入れるのは困難だと私は考えます。

まず、顧客側の企業としては運賃は継続的なコストです。
経済指標によってコストが変動するとなると、将来の業績通しに新たな不確定要素が入り込むことになります。
企業の業績見通しにはたくさんの不確定要素があり、業種業態によっては「予想」と「結果」が大きく乖離します。

上方修正の場合はいいのですが、下方修正をして株価が下がると経営陣は株主総会で吊るし上げられます。
こういう事情があるので、(特に原材料や製品の輸出入が大きなシェアを占める企業は)外国為替のヘッジをしています。各企業によって保守的な「想定為替レート」が決められているのも、このような背景があるからです。

ヤマトホールディングスの相手企業、とりわけEC企業にとって運賃は大きなコストになるので、不確定な経済指標によって変動するとなると業績予想が立てにくくなります。外国為替の「想定為替レート」のような保守的な「想定運賃」という概念を導入する必要が出てくるかもしれません。

市場経済という見地からも、経済指標連動価格の設定は難しいのではないでしょうか?
雇用や賃金の情勢をベースにして価格を決めるのは、コストに一定の利益を上乗せして価格を決める方法と似ています。

全く同じではないにしろ、コストに応じて安定的な利益を得る方法で、従来の電力会社やガス会社のような独占企業が使っていた方法です。

しかし、市場経済は「需要と供給」で価格が決まるというのが大原則であり、独占企業的な価格決定は例外です。
だからこそ、電気料金やガス料金の値上げには主務官庁の許可が必要だったのです(儲けすぎて利用者負担をが増えないよう)。

確かに、ヤマトホールディングスは宅配便事業の巨人で市場占有率は高いですが、決して独占企業ではありません。需給原則に則って安価な運賃を提示する他の業者が現れれば、シェアを奪われる恐れもあります。

以上は、純然たる経済指標連動価格のデメリットを述べたに過ぎず、ヤマトホールディングスが実際にやろうとしていることとは全く異なるかもしれません。私程度の知識は、同社も当然知っているでしょうから。

ヤマトホールディングスは個人的には好きな企業です。配達員さんたちも愛想がよくて気持ちのいい人たちが多いです。上記のようなトラップに引っかかっていることは決してないと信じています。

今回の報道を素材にして、一般論として経済指標連動価格の問題点を整理したものとお考えいただければ幸いです。

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荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年9月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。