EVを太陽光発電で満たす未来はやってくるか?

こんにちは。株式会社電力シェアリングCEOのNick Sakaiです。

トヨタ自動車は9月28日、マツダ、デンソーと共同で電気自動車(EV)の基幹技術の開発を行う新会社を設立したと発表しました。

EV量産に向けた技術や開発手法を確立したい考えで、日産自動車や欧米勢に対して出遅れていたEVの開発スピードを上げるのが目的。新社名は「EVシー・エー・スピリット」。資本金は1000万円で、トヨタが90%、マツダとデンソーが5%ずつ出資する。本社は名古屋市。トヨタの寺師茂樹副社長が社長に就任。発足時はエンジニアを中心に社員40人を擁し、トヨタが17人、マツダが16人、デンソーが数人を派遣するということです。

2016年の4月のAgoraでの拙稿「テスラが日本の自動車・電機メーカーを破壊する日」で、EVに全く色気を出さないトヨタさんへの物足りなさを吐露した私としては、「君子豹変す」のトヨタさんの変わり身の早さに、思いも一塩です。それにしても、今やメディアはEV一色ですね。私が見るところ、そのメジャーな論点は以下の3つです。

1)EVが普及するかしないか。航続距離・充電時間等の制約・高価格を克服できるか?

2)中国や欧米がEV振興政策をとる中で、日本市場は先を越されるのではないか。

3)ガソリン車で積み上げた、擦り合わせ技術でリードする日本メーカーはジリ貧になるか。

これはそれぞれ大事な論点ですが、もう一つ今真剣に議論すべき話題があります。それは、

「EVが普及したとして、その時に、その動力源の電気は何になるのか?太陽光発電(PV)なのか?」

ということです。例えば、EVは運転時に排ガス等一切出さないのでエコなのですが、もしそれが石炭によって生み出された電気を使っていたとしたら、ちっともエコではありません。全体で見たら、ガソリン車より環境負荷が高かったなんていう笑えない状況になります。

だから、必ず、EVの普及は環境に優しい電源の創出とセットで議論されるべきなのです。今はまだこの論点はあまり俎上に上がっていませんが、近い将来、必ず議論されることになるでしょう。すなわち交通IoTの話題が電力IoTに染み出してゆくのです。

で、「EVはPVで満たされるのか」という質問に対する私の答えはYesです。EVの普及は、必ずや、太陽光発電(PV)の普及を後押しするでしょう。

だがしかし、このゲームを仕掛けたイーロンマスクのやり方、すなわち大きな一戸建ての屋根にソーラーパネルを設置して、壁に設置したWallという蓄電池に貯めて、夜EVに充電するという大味なヤンキー・カーボーイ方式ではなくて、日本型モデルが構築されてゆくでしょう。

それは、近隣の地域(住民や事業者)で、屋根置きのソーラーパネルと据え置き型蓄電池と電気自動車が、配電網を通じて電力をシェアし合うという電力シェアリングモデルです。言ってみればUberの電力版ですね。

テスラのモデル3を買う人をプロファイリングしてみましょう。流行に敏感で、PCはマックを使い、電話はiphone。モデルチェンジの度に最新型に買い換える、新し物好きのイノベーター・アーリーアダプターで、多くは都会に住む男性。お金は結構持っていて、港区や豊洲のタワマンに住む。そんな感じですね。

で、彼に「でもあなたの動力源石炭だよ」というと嫌な顔をするでしょうね。「太陽光で満タン、エコでクールですね」というと喜ぶでしょう。

でも、彼は、そういう都会に住む人々は、自分の家に蓄電池や屋根に太陽光パネルを設置するスペースを確保はできないでしょう。ここは、カリフォルニアの郊外ではなくて、人口密集地東京です。もちろん、イノベーターの中には地方のお金持ちや、広尾や松濤で大豪邸に住んでいる人もいるでしょうが、ボリューム的には少ないでしょう。

そんな彼らは「イーロンマスク教」、すなわち太陽光でのエコでクールなライフスタイルの訴求すべし、という刷り込みを受けているので、セカンドベストのソリューションサービスを望むでしょう。

それこそが、エコでクールな電気小売事業者が提供する、電力シェアリングサービスです。それは、EVユーザー(電気を買いたい)と、近所で太陽光(PV)や蓄電池を設置している人(電気を売りたい)を結びつけてあげるサービスですね。

だがしかし、そのような顧客を当て込んで、ビジネスの組成を狙う起業家、何を隠そう私もその一人ですが、そう言った起業家には厄介な以下の3つの課題が立ちはだかります。

第一に、屋根置きのPVは、固定価格買い取り制度(FIT)で、政府及び中央に吸い上げられてしまっていて、シェアすべき電気がないこと。

第二に、蓄電池の値段が高くて、近所の誰も(例えば、コイン式駐車場の事業者とかオリックスカーシェアリングとか)が蓄電池を設置したがらないこと。

第三に、EVの充電をする人とPVや電池を持つ人が近所で電気のやり取りをしようと思っても、電力会社の配電線を介さないといけなくて、その通行料金(託送料金)がかなり高いこと。

うーん困った。でもでも、永遠にEVユーザーと近所のPV・電池所有者は繋がらないのかというとそんなことはなくて、近未来に以下のようなソリューションはもたらせられるのではないかと私は予想するのです。

第一に、2019年にFIT切れの太陽パネルオーナーが大量に発生すること。(40−50万軒とも言われる)これらの電気の行き場がなくなり近隣に放出されること。

第二に、蓄電池の値段が価格破壊を起こしていて、近い将来激安で誰でも蓄電池を設置できるようになりそうなこと。するとコインパーク事業者やオリックスカーシェアさんみたいな人々がこぞって電池を置いて商売を始めるでしょう。(今1kWh10万円ですが、近々1万円を切るというのが業界コンセンサス)

第三に託送料金ですが、実は今、欧州では、近隣の電力シェアリングへ誘導しようとする強烈な政策ドライブがかかっていて、もしそれが上手くいくと、早晩日本でも限定的な規制緩和(例えばEVへの近所の電池やPVからの充電の託送料金を軽減する)議論が巻き起こるかもしれないこと。

しかし、そうは言っても甘い見通しだけでビジネスを立ち上げる奇特な人はいません。当面ご飯を食べて行かなければならない人は、着々とXデイに備えています。そのマネタイズ手法は以下の通りです。

まず、イノベーターと言われる人々(個人・事業者)に様々な誘引を与えて、太陽光・電池を設置して自家消費させる、そういう商売がスタートする。というか、既にしています。みんな電力さんや自分電力さん、Looopさんなどがそうです。電池売りだとDMMさんがビートたけしを起用して派手なCMを打っています。

次に、ドイツのシュタットベルケの日本版という、いわゆる地域電力が勃興しています。大手だと、東急電鉄沿線に的を絞る東急パワーサプライさんや、みやま電力さん。地域電力は、地方自治体が関与して、売りと買いの両方が自治体施設で、そこで事業リスクを軽減して、徐々に地域の需要家・供給者を引き寄せていく現実的な戦略を取られています。ただ、地域電力は、既存の電力会社の送電網を経由するという点では制約があります。

この2戦略でできるだけ売りと買いのユーザーを集めて、託送料金の規制緩和を待つというアプローチが、ビジネスモデルです。そんな機運を環境省さんが強力に後押ししていて、先日も大規模な蓄電池補助金政策を発表されて業界を驚かせました。

こうして地域のエコな太陽光発電でEVの燃料タンクが満たされていく。そんな将来像が見えてきています。

参入障壁が低くて、誰でもスタートアップできるIT業界のシェア・マッチングサービスと違って、電力IoT分野はとっつきにくくて、まだまだベンチャー企業は多くなくて、なかなかエコシステムが形成されていないのが現状です。

しかし、交通IoTと同じく大化けする可能性を秘めていて、実はプレーヤーが少ない分ブルーオーシャンだったりします。私自身もベンチャー起業を果たしましたが、盟友と切磋琢磨して盛り上げていきたいと思います。ご関心のある方は是非、私のブログやツイッターにも遊びに来て下さい。私も引き続きAgoroaで情報発信していきます。

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