テスラが日本の自動車・電機メーカーを破壊する日 --- Nick Sakai

寄稿

米国テスラが発表したモデル3に僅か2週間で40万台の予約が殺到しています。日本でも青山の同社オフィスに徹夜の行列ができました(※訂正あり、下記に記述)。私は、自称テスラ・シンドロームウオッチャーですが、その日本の経済・社会に対するインパクトは計り知れないと思い、皆様に私の考えをシェアさせていただきます。

日本では「若者の車離れ」と言われて久しいですが、かつて自動車が売れに売れた時代がありました。昭和40年代の高度成長期に始まり、平成バブルで頂点に達しまた。売れた理由は2つあります。若者にとっては、「女の子にモテルためのマストアイテム」でした。「車を買って彼女とドライブ」が動機で、セダンよりはスポーツタイプ、国産よりは外車がもてはやされま した。一方、ニューファミリー(もはや死語ですが)にとってはカラーテレビと共に、多摩ニュータウンに象徴される新しいライフスタイルをもたらしてくれました。

ところが、「失われた20年」を経て、特に都会では、もはや車はモテアイテムでもないし新しいライフスタイルも提案してくれません。下手に外車なんかに乗っていると「バブリー」「車おたく」という誹りを受けます。人々の価値観が「所有」から「共有」へとシフトしているなかで、車はレンタカーで十分、無駄に車にお金をかけるのは格好悪いという風潮が芽生えてきています。「今の若者はお金がないから車が売れない」という言説をよく聞きますが、価値をもたらせば売れるはずです。昭和40年代の若者は今よりもっと 貧しかったけれど、年収以上の借金をしてカローラを買いました。

そこでテスラです。私はテスラは、「車(もの)」ではなくて「新しい価値観」を売っているのだと思います。日本ではあまり報道されていませんが、イーロンマスクは、Wallという自宅設置型の蓄電池と太陽電池を車とセットにして、100%電気の自給自足生活をアピールしています。太陽光で発電し、家の電池や車に蓄えて使う。究極のエコです。日本でこうしたことを言うと、原子力問題や気候変動などの思想・信条と絡められて受け止められることが多いのですが、イーロン・マスクは「自動車でも家庭でもゼロエミッションってCoolじゃないか」という消費者のエモーション(心情)をくすぐって、消費行動に繋げているので す。私は、このやり方に全面賛同するし、私自身も「エコをクールにマネタイズ」というビジネスモデルを構築しようと、いろいろアクションを起こしていますので、ご興味がある方はどうぞ私のブログに遊びにきてください。

さて、自分の宣伝はさておき、今、トヨタ自動車を震撼させる出来事がアメリカで起きています。鳴りもの入りで売り出した、プリウス・プラグインハイブリッド車(PHV)が全然売れていないのです。先月、米国市場でテスラのモデルXが3,990台売れたのに対し、たったの7台しか売れていません。(ちなみに「老舗」日産リーフは1,246台)。かつてハリウッドスターが「エコな自分」をブランディングするために競って乗った、あのプリウスをコンセントで充電できるようにした次世代主力車が全米でたった7台です。ここに、テスラシンドロームがUberやAir B&Bといったシェアリングエコノミー型のアプリケーションと相まって、日本の自動車・家電メーカーに破壊的打撃をもたらすリスクを私は見い出します。今のトヨタ(あるいは日本の自動車・電機メーカー)って、AppleがiPodを売り出した頃のソニーの立ち位置に近いというのが私の直感です。

Walkmanで圧倒的優位にあったSonyがなぜ「新参者」のAppleにあっけなく破れ去ったのか、その原因はもはや定説化していますが、一言でいうと、「いいもの(音)を作れば売れる」という供給サイドの傲慢な思い込みと、AppleはItuneという音楽配信システムを売っていたのに(iPodはそのシステムの端末に過ぎない)、CDを販売するCBSを有するSonyは社内外の「しがらみ」や「規制」(音 楽業界とか)を打ち破れずシステム展開を果たせず、二重の意味で「日本のモノ作り神話」に固執したことにあるでしょう。

今のトヨタも同様です。「もはや車(モノ)単独でライフスタイルは訴求できない時代に入っている」のです。テスラが訴求しているように、全量太陽光発電で賄うとか、家庭もひっくるめてのエコ化とかシステムで売る時代なのに、トヨタは車(モノ単品)に固執しているのです。だから、せっかくプリウスで火を付けた「エコという価値訴求」をテスラにあっさりと奪われてしまうのです。

水素社会を追い求めるのもいいでしょう。燃料電池車ミライに傾注するのもいいでしょう。私はそれを否定するつもりはありません。むしろ応援します。もしかし たら20年後に水素がEVを凌駕するかもしれません。でも、「水素だけ」にベットするのはあまりにリスクが高すぎる。どうして、二兎を狙わないのでしょうか。一方で、レクサスは米国市場でよく売れていて、高級車マーケットでBMWを抑えて2ヶ月連続一位だそうです。私が豊田社長ならレクサスPHVを即刻投入してテスラシフトを組みますが、社内のしがらみでそうはならないのでしょうね。

さて、驚くべきことに、テスラの提案するソリューションは日本のほぼ全ての電機メーカーが既に発売しています。自動車と家庭や電力配電網を繋ぐシステム(V2HやV2G)などはもともと日産が構築し、ニチコンという会社がずっと前から売っていますし、今話題のシャープなどは2年前に「クラウド蓄電池システム」という商品を売り出しています。シャープのシステムは、「ネットワーク上で情報を管理する「クラウドサーバー」と連携し、電気料金プランや季節・時間帯によって変化する電力使用状況に合わせたエネルギーマネジメントを実現する。」という優れもので、スマホとの連動も実現しています。NECも同様の製品を売っています

しかし、つくづく思うのは、「ああ、日本メーカーはこれを家電製品としが見ていないのだな」という寂寥感です。まず、製品の色味とかカタログ、ウエブサイトは失礼だが、とってもダサい。おじいちゃんと孫が笑っている写真がカタログのトップにきて、「昭和かよ、」と突っ込みたくなります。加えて高い。テスラのWallが40万円に対し350万円と約10倍の差(この辺はまた後日)。しかも電気料金メニューとの連動やEVとのセット販売などは全くなくて、パーツを売るからシステムは自分で組み立ててくださいという姿勢。これじゃ、快適・便利に響くお客さまは買ってくれません。

一方テスラのWall、白と銀が基調でスタイリッシュ、近未来的でとってもわくわくします。マッキントッシュのiphoneやipadを彷彿とさせるデザイン。デザインへの徹底的なこだわりもイーロンマスクとジョブスの共通点ですね。多分、ワンクリックで、EVと発電機と蓄電池をセットしにやってきてくれますね。そのうち日本でも売り出すでしょう。

いい要素製品は持っているのに、社内外の事情で、インテグレーションが出来ずに、米国のニューカマーに席巻される。10年前に見た悪夢が再びやってこないことを望みます。頑張れニッポン。Dさん、Hさん今なら間に合いますよ。今日はこのくらいで失礼します。

NPO法人 Regional Task 代表 Nick Sakai

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※編集部より;本記事中で「日本でも青山の同社オフィスに徹夜の行列ができました」との記述がありますが、実際に現場にいらっしゃった読者の方から「事実と違う」とご指摘を受けました。Sakai氏に確認したところ、「米国で徹夜の行列が起きたという報道と混同した」とのことで、当該部分を取り消し、訂正いたします。