テレビ局の既得権を100%守る規制改革

池田 信夫

民放連の公式サイトに井上会長の記者会見が出ているが、問題を根本的に取り違えている。これは15年ぐらい前からテレビ業界に受け継がれている都市伝説で、これがオークションを阻む最大の壁だ。

放送事業者は特に災害時において国民の生命・財産を守るため、割り当てられた電波を有効に利用し、公正・公平に、安定した放送サービスを提供するという極めて公共性の高い役割を果たしていると自負している。事業者を入札金額の多寡で決めるオークション制度には心配がつきまとうし、放送用、放送事業用周波数はオークションになじまない。オークション制度には反対である。

彼は何を心配しているのだろうか。規制改革推進会議の検討しているのは使われていない帯域の有効利用であり、すでに放送局が使っている周波数をオークションにかけることはありえない。「事業者を入札金額の多寡で決めるオークション制」という表現は、放送業界への新規参入を恐れているとも解釈できるが、その心配もない。

規制改革推進会議も総務省も新たな利用者として想定しているのは、電波の需要が激増している移動通信システムである。具体的にいうと、民放連も否定しなかったように、首都圏のテレビ局のチャンネルは図のようにSFNで8chに整理できる。残り32chは免許人のいないホワイトスペース(空き地)だから、オークションで売却できるが、そのとき応札するのはテレビ局ではない。

今年6月にアメリカで同じ帯域(600MHz帯の84MHz)のオークションが行われたが、198億ドルで落札したのはT-Mobileなどの通信業者である。日本でもUHF帯で200MHz売ると2兆円近い価格がつくと予想されるが、買うのは電波の不足しているモバイル業者であって衰退するテレビ局ではない。

たとえば200MHzを8スロットにわけてオークションをやると、落札価格は1スロット2500億円。テレビ東京の年間売り上げをはるかに上回るが、ソフトバンクにとっては営業利益の2ヶ月分ぐらいだ。楽天やDMMやLINEなどMVNO業者が電波を買えば、新しい発想のモバイルビジネスが可能だ。

このようにオークションは電波をもっとも有効利用する業者を選ぶメカニズムだから、電波を浪費しているテレビ局には関係ない。これは電波利用料とも無関係だ。オークションが実施されたら、その代替措置だった電波利用料はやめてもいい。

再編で空いたチャンネルをオークションにかけても、今の放送はそのまま続けられる。ガラパゴス規格の「ワンセグ」の代わりに、区画整理であいた帯域でインターネットのモバイル放送をやることもできる。区画整理はテレビ局の既得権を100%守る改革なのだ。