トランプ政権による核戦略転換の行き着く先 --- 上岡 龍次

2018年02月05日 06:00

Gage Skidmore/flickr(編集部)

アメリカの核戦略転換

アメリカは戦術核の使用を前提とした核戦略を転換しました。それだけではなく、核兵器による先制攻撃も示唆した内容になっています。これまでは通常兵器と核兵器は別物の扱だったが、これからは通常兵器と核兵器は同一視されることを意味しています。

アメリカは仮想敵国が通常兵器でアメリカと同盟国を攻撃しても、戦術核で反撃することを明言しました。これは核兵器による恫喝ですが、通常兵器の攻撃に対して核兵器で反撃することは、国際社会からの反発を覚悟していることを示唆しています。

冷戦期の核兵器

過去の東西冷戦期は、双方が核兵器で撃ち合うことを前提とした時代でした。核兵器は戦術核の使用であっても、一度使えば相手も同じ規模で反撃します。もしくは、相手国よりも少し多い量で反撃します。これを双方が繰り返すことで、核兵器の使用は段階的に規模が大きくなることが予測されました。

その結果が、東西冷戦で見られた核兵器による睨み合いです。東西両陣営は、いつ始まるか判らない核戦争に備え怯えました。しかし冷戦末期になると、核兵器は過剰な破壊をもたらす兵器なので、防御の手段と方法が無いことを認識しました。

通常兵器では防御戦術が成立しても、核兵器に対しては防御戦術が成立しません。さらに東西両陣営は核兵器の戦術運用と戦略運用の分離を試みますが失敗に終わりました。

イギリスの戦略理論家リデル・ハートは、戦略核戦争論と戦術核戦争論を分離するのは無理なので、核弾道ミサイルは使えない兵器だと主張しています。リデル・ハートの主張を認めるかのように、核兵器の立ち位置が変化しました。

核兵器は戦争用の兵器ではなく、相手国から脅されない政治用の兵器への移行です。この変化により、核兵器は政治用の恫喝兵器として存続しました。

冷戦期の通常兵器

冷戦期のアメリカ軍は核戦争を前提としていたため、通常兵器の開発が遅れていました。それにより通常兵器は陳腐化していました。何故なら、核戦争では核弾頭の打ち合いなので、戦術と戦略は消え失せていました。

アメリカが基本に回帰したのは冷戦末期の様です。アメリカ軍はソ連軍の通常兵器による侵攻を前提と認識することで、兵器を戦術と戦略から見直しました。これによりアメリカ軍の兵器は、陳腐化が終わり次の戦争に対応できるように変化しました。

トランプ大統領が示す未来

過去の例から見ると、アメリカが核兵器に資金と人材を優先すれば、アメリカ軍の兵器は陳腐化することを暗示しています。さらにアメリカ軍からは戦術と戦略が消えうせ、核兵器を見せつけて相手国を脅すだけの国になり下がります。

仮にロシアと中国も核兵器配備を拡大化すれば、それは過去の冷戦の様に核兵器による睨み合いの再現です。これは過去の冷戦で実証された様に、核兵器が生み出した平和が訪れます。

過去の冷戦では核戦争は発生しませんでした。その原因は、双方が核兵器の応酬を恐れたからです。核兵器の使用は自殺覚悟の相殺戦だから、勝利を追及する国は核兵器を使えないのです。

世界がトランプ大統領の核戦略転換に同調して核軍拡を選択すれば、世界は核兵器による平和が訪れるでしょう。ただし、核戦争の恐怖と同居することになるのです。

上岡 龍次(うえおか りゅうじ)戦争学研究家
九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。元陸将補、軍事評論家の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。

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