私は以前から、知識職業ほどAIに取って代わられると考えていました。
膨大な過去のデータを持ち偏りなく処理できるので、間違いなく人間より知的作業は優れているはずです。
20年くらい前のコンピュータと呼ばれた時代から、病気の診断では機械の方が勝っていたそうです。
先般、昔の上司から「知人の相談に乗って欲しい」という依頼がありました。時間調整が難しかったので、とりあえず概略を訊いたところ次のような案件でした。
Aさんが店舗として使っている土地建物を、Bさんがそのまま店舗として使う目的で借り受けたいとのこと。ところが、当該土地建物にはC銀行の抵当権(もしくは根抵当権)が付いており、C銀行が本件賃貸借に難色を示している。ついては、銀行に対する説得材料が欲しい。
私は、「全く問題ありませんよ。銀行は不利益を受けませんから」と答えたのですが、どうもそれでは銀行が納得しないとのことでした。
しばらくして、はたと閃いた私は、抵当権設定後の短期賃借権制度が廃止されたことを説明しているサイトを探し出して元上司にメールしました。
従来は抵当権が設定されている不動産に短期賃借権を設定して競売妨害をする反社会的勢力がたくさんいたことから、短期賃借権制度がすでに廃止されたのは、私たち法律家にとっては周知の事実です。
サイトのURLを送った後、結論として、「賃貸借契約は通常の不動産業者等が使っているもので問題ありません。ただし、本件で不測の損害を受ける恐れがあるのは賃借人なので、特約として「乙(賃借人)は本件不動産に下記抵当権(根抵当権)が設定されていること、及び、競売となった場合は退去しなければならないという説明を甲(賃貸人)から受け、了承した」という文言を入れておくことをお勧めします」と付記しておきました。
元上司は銀行融資を担当していたので普通の人よりははるかにこのような事情を知悉し、高い知性を持った人物です。
しかし、C銀行への説得材料を引っ張り出すことはできませんでした。短期賃借権という論点にたどり着けなかったのでしょう。
この案件で、AIが高性能になったとしても、はたして人間の質問のニュアンスをきちんと汲み取ることができるのかという疑問を私は抱きました。
先の例で行けば、人間の生の質問だけを訊いて、問題点が賃借権がであることをAIがフォーカスできるかという点です。
病気の診断も同じでしょう。人間の医師がいくつかの可能性を示唆するという前提で、初めて精度の高い診断ができるのではないでしょうか?
さもなくば、人間ドックでトータルに検査した結果をAIに提供しないと診断不能になるような気がします。
このように、問題点をピックアップする作業は、よほどAIが高性能にならない限り「人間の領域」として残るのではないかという疑問を抱きました。
とりわけ、一般人の方の法律相談などは、とりとめもない話の中から法的論点を抽出するのが最大の苦労です。
よほど高度化して人間同様の感情等の理解力等が付いてくるまでは、私たち知識労働者にも「橋渡し役」としての存在意義が残るかもしれません(^^;)
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2018年2月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。