アメリカの核戦略体制見直しの背景を考える

鈴木 馨祐

ホワイトハウス公式サイトより:編集部

アメリカのNPR(Nuclear posuture Review=核戦略体制の見直し)が、というよりも、核の先制不使用の問題が話題となっています。オバマ大統領のときにも国際情勢からの判断により、核先制不使用に踏み込まなかったわけですが、そこに引き続き言及しなかったこと、ハード面においても、小型の核兵器の開発の加速をすることなどが論議を呼んでいるようです。

前回の文書からの変更点がどこかなど、詳細な検証も必要ですが、ここでは、核戦略そのものについての所見を書かせていただきたいと思います。

そもそも、冷戦期のように米ソの二大国が圧倒的な軍事力を持ち、お互いが相互確証破壊の状況であれば、核兵器保有国同士の間においては、核の先制不使用ということが、実質として担保されていました。英仏に関しては、他国への核攻撃という選択の余地や可能性は極めて低く、また中国にあっても、アメリカ、ソ連との圧倒的な能力の差により第二撃能力を持ち得ず、全ての核保有国の間で事実上の先制不使用、つまり核戦争が起こらないことが担保されていたわけです。

もちろん、その当時にあっても、拡大核抑止、すなわち核の傘の有効性という観点では、同盟国の防衛に関しての古典的な議論がありました。

そもそも、能力的に圧倒している国が率先して核の使用を行うインセンティブはありません。逆にその圧倒的な能力の差によって、第二撃能力により相手を確実に滅亡させられるということで、先制不使用を宣言していようがいまいが、他の国々に核の使用を考えさせもしないでこられたというのが従来の状況です。アメリカが優位にある状況下にあっては、どのようにして、それ以外の国が核を使用するインセンティブを潰すことができるのか、この点が極めて重要です。

核の先制不使用という宣言そのものが、所詮は政治プロパガンダ的なものであって、そのことは、従来それに言及してきたのが、核戦力に関しては圧倒的な劣勢におかれていた中国だけということからも推して知るべしです。そしてその中国が、SLBMやDF41の開発により第二撃能力を手に入れ、かつ米国との差を縮めることに成功しつつある段階になって、自らの先制不使用の撤回をにおわせ、アメリカの今回の方針に異を唱えていることも将にその証左です。

アメリカの観点からすれば、自国の安全保障は当然のこととして、そのために核戦争を起こさない、ということを考えれば、「先制不使用」あるいは小型核の開発は、それをすること、しないことによる、核戦争及び大規模な戦争を起こさせないというテーゼにおける有効性からのみ純粋に判断されるべき問題のはずです。

その点を考えたとき、問題の本質は、クリミアや台湾海峡など、ロシアや中国が、そして北朝鮮が、実際に核を使用する誘惑に駆られうる今の状況をどう判断するかという点につきます。実際クリミアにおいて核の使用がプーチン大統領の頭をよぎったというようなことも言われていますし、北朝鮮はもちろんのこと、中国においても先制不使用を撤回するというようなメッセージが軍上層部からおそらくは意図的に出されてもいます。

この様な極めて不安定な状況下で、アメリカが自らの安全や同盟国の安全を守ることを考えたとき、核の先制不使用にあえて言及したり、小型核兵器の開発の遅れを放置しておくことが果たして適切な選択なのかと言えば、そこには疑問が残ります。むしろ、中国やロシア、北朝鮮といった現実的な脅威に対して、アメリカはそうした国々の通常兵器や化学兵器、生物兵器による攻撃に関しては核の反撃を行わないのだと言うメッセージを与えることになりかねず、核が通常の戦争の抑止にならないという結果を招くことになってしまいます。核における現状のアメリカの他国に対する大きな優位を考えれば、核を切り離した場合のアメリカの抑止力は、現実問題、相対的に低下してしまいます。

そして、このことが世界の平和安定、特にバルト三国を含むロシアの周辺地域や、台湾海峡、東シナ海、南シナ海等の中国の周辺地域の安定に与える影響は極めて大きいものがあります。

このように考えたとき、今回のアメリカのNPRは、中国やロシア、北朝鮮をはじめとして、緊張が極めて高まっている国際情勢を考えれば、やむを得ない見直しだと言えますし、その後の各国の反応に鑑みれば、邪心を抱く国に対しては適切なメッセージになったのではないかと思われます。


編集部より:この記事は、自由民主党青年局長、衆議院議員の鈴木馨祐氏(神奈川7区)のブログ2018年2月17日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「政治家  鈴木けいすけの国政日々雑感」をご覧ください。