社員を大切にしなければ「真の働き方改革」は実現できない

2018年04月18日 06:00

写真は藤井正隆さん

この10年の間に、リーマンショックがあり、粉飾、偽装、改ざんなど、経営責任が問われる事案が表面化してきた。これは、「株主優先主義」を目的にすることの弊害を端的に表している。「社員とその家族を大切にする」「人々が喜んでくれるような、世の中の役に立てる会社を経営していく」ことの重要性が認識されていると考えられる。

今回は、『社員を大切にする会社ほど伸びる理由』(クロスメディア・パブリッシング)を紹介したい。著者は藤井正隆さん。「人を大切にする経営学会」理事、自身でも人材開発企業を経営する。『日本でいちばん大切にしたい会社』(あさ出版)著者の坂本光司教授らと、年間約100社を視察・研究。現場で実際に見てきたことを整理し伝えている。

主な著書として、『いい会社のつくり方』(WAVE 出版)、『感動する会社は、なぜ、すべてがうまく回っているのか?』(マガジンハウス)、『ぴょんぴょんウサギとのろのろカメの経営法則』(経済界)などがある。

「働き方改革」という矛盾

私は、「利益は会社の目的ではない」と考えている。事業における効果や手順ではなく、有効であるかの適切性、つまりは妥当性であると考えている。妥当性があれば利益が上がり、妥当性がなければ利益が下がる。この妥当性とは社会からの評価である。

「働き方改革、残業削減、ワークライフバランスといった言葉を聞かない日がないほど、メディアで話題になっています。どのように取り組んだらいいのかについて、戸惑っている経営者や社員も多いのではないでしょうか。経営者からは『働き方改革などは戯言。会社がつぶれたら、働き方改革どころではない』と言われます。」(藤井さん)

「さらに、『取引先から、明日までの納期でこのコストで持ってきてほしいと言われ、できない場合は他社に切り替えると言われています』。社員からは『働き方改革といっても、売上・利益目標があるため、実際には、残業をやらないと仕事は終わらない』、『仕事を家に持ち帰っている』という声が聞こえてきます。」(同)

これらの現象について、藤井さんは次のように解説する。「こうしたことが起こるのかといえば、働き方改革が単に残業時間の短縮といった表面的な数字ありきになってしまっているからだと感じます。本質的な問題が解決されない限り、問題が水面下になるだけで、本来の『働き方改革』は実現できないと思います」。では本質とはなにか?

「働き方改革の実現のためには、社会全体が『意識改革』をすべきです。長野県伊那市の伊那食品工業に、企業視察のために毎年数回訪問しますが、ハッとさせられたことが何度もあります。寒天ブームのときに、需要が大きくなり、三交代制を取り入れたことがありますがやめました。理由は社員の顔色が悪くなったからです。」(藤井さん)

「売上が上がっても、社員の健康を害しては、意味がありません。会社を家族で始めたとしたら、給料は多ければ多い方がいいと考えます。ところが、他人が入ってくると支払う給料は人件費になり抑えた方がいいといわれる。おかしいでしょう?」(同)

すでにおわかりだろう。この企業では売上・利益ではなく、社員の健康、生活、幸せを一番の目的として考えている。ところが、まだまだ企業によっては、売上・利益があたかも一番の目的であると勘違いしているところが多いことを忘れてはいけない。

「株主優先主義」は間違いである

企業の役割は、「株主を幸せにする」ことだと主張する人たちがいる。多くの経営書では「会社は株主のものである」と書いている。 また、「会社は誰のものか」という議論では「株主のもの」という考えが支配的で、 経営の目的も「顧客満足」とか「株主価値の最大化」などということが当然のようにいわれている。

経営者に対して、事業の目的は何か?と聞けば「利益の追求」と答えるだろう。では、社員のなかで「会社の利益のために仕事をしている」と明確に答える人はどの程度いるのか。おそらく、「顧客のため」「家族のため」「自分のため」と答えるだろう。「利益を追求すること」が目的となれば批判は避けられなくなるからである。

「働き方改革といわれても、理想として掲げられる姿が自社の状況に対して現実的でないから多くの人が、理想と現実とのギャップのなかで白けてしまうのでしょう。なぜなら、自社が社員を大切にして幸せになってほしいと考えて働き方改革を目指したとしても、取引先からの無理な要求で元も子もなくなるといった現状があるからです。」(藤井さん)

「自社の福利厚生がいくら手厚くても、そのシワ寄せを協力会社や取引先に押し付けるような会社は尊敬できないと思います。なぜ、こうしたことが起こるのでしょうか?その根底には、企業競争に勝つことが目的化されており、無意識だとしても『自分さえ良ければいい。自社さえ良ければいい』といった考えがあるからです。」(同)

企業の利益は犠牲の上には成り立たない

本書に書かれている、藤井さんの主張は次の3つに整理できる。
(1)会社は顧客のためのものでも株主のためのものでもない。
(2)社員が喜びを感じ、幸福になれて初めて顧客に喜びを提供することができる。
(3)顧客に喜びを提供できて収益が上がり、株主を幸福にすることができる。
だから、株主の幸せは目的ではなく結果にすぎない。

売上や利益が出たとしても、それが、誰かの犠牲の上であるならば、どう考えてもおかしいと藤井さんは主張する。本書には、「いい会社」の卓越した取り組みと、理論的な裏付けが詳しく書かれている。経営者、経営企画部門や人事部門に所属する人はもちろん、多くのビジネスパーソンに手にとってもらいたい。

参考書籍
社員を大切にする会社ほど伸びる理由』(クロスメディア・パブリッシング)

尾藤克之
コラムニスト

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